津田健次郎が明かす、百獣の王=クレイヴンの演じ方と自身の“ダークさ”「日常では表に出ないけど、お芝居では出すことができる」
「声優業と俳優業は相互に影響し合っているのを感じています」
俳優と声優をシームレスに行き来しながら、日々演じ続ける表現者である津田にとって、実写の洋画(外国映画)の吹替とはどういうものなのだろう。「演じるうえでは、アニメーションより実写の吹替の方がストイックなジャンルだと思うのですが、強い制限があるなかでどれだけ自由にのびのびと演じられるかが肝になってきます。たとえば『この流れだったら自分的にはちょっと違う感じになりそうだけど、この人はここで笑うんだ』みたいに、自分の生理とは違う声を出すことも多いですし、自分ではやらない演技をいかに自然かつリアルにやれるかというおもしろさを持ったジャンルなのかなと。職人的な要素も強いからこそスパンって綺麗にハマった時の気持ちよさもあります」。
先日の「第53回ベストドレッサー賞」の受賞コメントのなかでも、津田は「演じるという共通点は同じなので、作品ごとにアプローチを変えたりしている感じです」と語っていたが、 自分の身体を使って演じることは声優の仕事をする上でどのように活きているのだろうか。
「ありがたいことに両方やらせていただいていると、相互に影響し合っていることを自分でも感じます。実写の場合は基本的には相手がそこに居る状態で会話をするので、心の距離感も含めてセリフを話す時に実感が持てるというのは当然ありますよね。肉体を通してやりとりすることが非常に大事な要素でもあるので、アニメーションをやる時にもその肉体の感覚を、フィードバックするように心がけているところもあるかもしれません。逆にアニメーションの場合はエンタメ性が高いので、決め台詞をパキっと言う必要もあったりするんです。あまりやりすぎてもダメですが、実写と比べてしっかり言葉を立てて言うことのほうが多い気がします。そういった要素を実写の吹替やリアルなお芝居に活かすこともありますね」。
取材を受ける津田は、驚くほど腰が低い。取材部屋にあらわれるや、記者一人ひとりと目を合わせ、「津田健次郎です。よろしくお願いいたします」と挨拶する。耳に聴こえるのはまごうことなき“ツダケン”の魅惑の低音ボイス…ではあるのだが、“百獣の王=クレイヴン”を演じるとは想像つかないウィスパーボイス。「大切な商売道具である“喉”を温存すべく、取材時は“エコモード”で対応しているに違いない」。そう見当をつけたうえで取材の最後に思いきって本人に尋ねると、津田はあのクシャッとした笑顔でこう言った。「声、ちっちゃいですよねぇ。でもこれが地声なんです(笑)」と。「このギャップこそ、ツダケンこと津田健次郎の魅力なのだ」と改めて思い知らされた。
取材・文/渡邊玲子