ティム・バートン&ジョニー・デップの名作が鮮やかに蘇る!『エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン』の魔法のような演出の裏側に迫る

ティム・バートン&ジョニー・デップの名作が鮮やかに蘇る!『エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン』の魔法のような演出の裏側に迫る

ティム・バートン監督とジョニー・デップがタッグを組んだ名作『シザーハンズ』(90)を、英国バレエ界の鬼才マシュー・ボーン率いるダンスカンパニー“ニュー・アドベンチャーズ”が舞台化した「エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン」。2005年に初演されるや大絶賛を浴びてきたこの舞台がライブ収録され、現在公開中だ。そこで本稿では、本作をより楽しむためにオリジナルの映画版をおさらいしつつ、3つの特別映像と共にこの“ダンスバージョン”の魅力を紐解いていきたい。

クリスマスシーズンを代表するラブストーリーとして、30年以上愛され続ける『シザーハンズ』
クリスマスシーズンを代表するラブストーリーとして、30年以上愛され続ける『シザーハンズ』[c]Everett Collection/AFLO

まずは映画『シザーハンズ』から簡単に振り返っていこう。同作は、風変わりな発明家によって作られた人造人間のエドワード(デップ)と、人間の少女キム(ウィノナ・ライダー)のせつない恋を描いたファンタジックなラブストーリー。発明家が亡くなったことで、両手がハサミという未完成の状態のまま丘の上の城に取り残されたエドワード。ある日セールスにやってきた親切な女性ペグ(ダイアン・ウィースト)に誘われ、彼女の家族と暮らすことになった彼は、街の人々と交流を重ねながら、ペグの娘であるキムに恋心を抱くようになるのだが…。

『ビートルジュース』(88)や『バットマン』(89)で成功を収めたバートン監督が、自ら映画会社に企画を持ち込んで実現した同作は、1990年のクリスマスシーズンに北米で公開され大ヒットを記録。のちにハリウッドの名コンビとして様々な作品を生みだすバートン監督とデップの初タッグ作品でもあり、ゴールデン・グローブ賞の主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされたデップは、これを機に大ブレイクを果たした。

2024年3月のカーディフ公演をライブ収録した『エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン』
2024年3月のカーディフ公演をライブ収録した『エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン』Photo by Kaasam Aziz [c]2024 Trafalgar Releasing. ALL RIGHTS RESERVED.

そんな名作映画を“ダンスバージョン”として新たに蘇らせたボーンといえば、バレエの古典作品を斬新な解釈でオリジナリティあふれる世界観に創りあげ、バレエファンのみならず幅広い層から支持を集めるコンテンポラリー・ダンス演出家/振付家。代表作である「白鳥の湖」はバレエ興行史上最長のロングランを記録し、ローレンス・オリヴィエ賞やトニー賞など数多くの国際的な賞を受賞。またボーン自身、2016年にナイトの称号を授与されるなど、まさにダンス界の第一人者として知られている。

1つ目の特別映像のなかでボーンは、『シザーハンズ』を題材に選んだ理由について明かしている。「重要なテーマが込められているのに説教くさくなく、楽しめる作品。作品の核心には“異なる存在”と、そうした人々をどう扱うかというテーマがある」と説明し、エドワードのハサミの手について「障がいやセクシュアリティなど様々な解釈ができるメタファーになっている」と語る。そうした現代にも通底する普遍的なテーマが、ボーンを強く惹きつけたようだ。

そうしたボーンならではの新解釈で物語が語られていく一方で、映画版の持つ幻想的な美しさや心に響くシーンの数々がしっかりと再現されている点も本作の魅力の一つ。2つ目の特別映像では、エドワード役のリアム・ムーアとキム役のアシュリー・ショーが、映画版の魅力がどのように引き継がれているかについて語るインタビューが収められている。キムを模した氷の彫刻や、植木のカットなどアーティスティックなハサミ捌きなど、映画でおなじみのシーンがどのように再現されているのか注目だ。

マシュー・ボーンが独自の解釈でアレンジ!映画版との共通点や変更点に注目
マシュー・ボーンが独自の解釈でアレンジ!映画版との共通点や変更点に注目Photo by Kaasam Aziz [c]2024 Trafalgar Releasing. ALL RIGHTS RESERVED.

また、キムたちが暮らすホープ・スピリングスの住人たちの個性が強調されていたり、同性のカップルが登場したりなど、映画版から改変された点も多数。名シーンをもう一度体感できる喜びと、ダンスと音楽が融合した魔法のような演出。しかもダニー・エルフマンによるオリジナルスコアが聴けることも、映画版のファンにはうれしいポイントではないだろうか。

そして3つ目の映像では、エドワードを象徴するハサミの手の衣装の秘密が深掘りされている。パフォーマンスの自由度を追求するために軽量なファイバーグラスで作られた刃の部分。持ち手と刃にバネがついており、手の収縮に連動するように設計されているなど、細部までこだわりが満載。ハサミの手ではうまく相手をフォローすることができないため、本作の見せ場でもあるエドワードとキムが踊るパドドゥは、まさにムーアとショーの信頼関係の賜物といえよう。


物理的な距離がどうしてもできてしまう舞台では確認できないようなディテールまでチェックできたり、様々な視点から作品世界を観ることができるのは舞台収録作品ならではの魅力の一つ。ちなみに本作に収められているのは、2024年3月にカーディフのウェールズ・ミレニアム・センターで行われた公演だ。過去に行われた来日公演や映画版を観たことがある人はもちろんのこと、初めてこの物語に触れるという人も新鮮な体験が味わえること間違いなしの『エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン』。ぜひともこの年末年始、劇場で楽しんでみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬

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