阪本順治×オダギリジョー3度目のタッグ!きっかけは、2人が偶然キューバにいたから!?
キューバ革命の英雄、エルネスト・チェ・ゲバラの意志を継いだボリビア日系二世の医学生、フレディ前村ウルタードの知られざる生涯を、日本とキューバの合作で映画化した『エルネスト』(10月6日公開)。本作で『この世の外へ クラブ進駐軍』(03)、『人類資金』(13)に続いて3度目のタッグを組んだ主演のオダギリジョーと阪本順治監督が、今回の撮影を振り返った。
フレディ前村とオダギリジョーは“諦めない気質”がそっくり?
これまでも73年に起きた金大中事件の真実に迫る『KT』(02)、タイの裏社会で行われている幼児売買春、臓器売買の実態を暴いた『闇の子供たち』(08)など、映画化困難な作品を世に送り出してきた阪本監督。だが今回、監督がキューバロケを徹底してまでフレディの生きざまを映画にしたかったのはどんな想いからなのか?監督は「光が当たっていない人や事柄に光を当てるのが、映画の使命だと僕は思っているんです」と切り出した。
「そういう題材を探している時にフレディ前村の存在を知り、無謀な企画かもしれないけれど、名もなき普通の医学生が母国のボリビアだけでなく、ラテンアメリカの解放のために駆け抜けた青春を映画にして、みなさんに知ってもらいたいと思ったんです」
フレディ役に監督が抜擢したのが、オダギリジョーだった。「フレディ前村のことを取材するうちに、自分がこれだと思うものを実現させるまでは諦めず、努力し続ける彼と気質が似たオダギリ君の顔が浮かんだんです。彼との3本目の映画は、多くのことと戦わなければ成立しない企画でやりたいと思っていたし、オダギリ君ならスペイン語も減量も髪の毛を伸ばし続ける生活も当たり前のようにやって現場に臨んでくれると勝手に思っていて(笑)。それこそ僕が初めてキューバに行った時、別の要件でオダギリ君にメールをしたら『僕もいまキューバにいます』と返信があったんです。そういう偶然のめぐり合わせもあって、彼に迷わずオファーしましたね」
参加しなければ後悔する、今の邦画界にこそ必要な映画
監督からのオファーを受けたオダギリは「その企画を聞いた時点で、相当な挑戦になることは容易に想像できましたが、だからこそ参加したかったし、今の日本映画界に必要な作品だと思いました。ゲバラやキューバのことに昔から興味もあったし、とにかくこれは参加しなければ後悔するみたいな気持ちに自然になっていました」と強調する。
その日から、オダギリの中でボリビア日系二世のフレディ前村になる準備が始まった。「役を演じるということはその人物と共に生きることになるので、話をもらった数年前からフレディのことをずっと思い続けることになりました。なかでも、ラテンアメリカで生まれ育ったフレディの中に残る、日本人らしさとはどういうものなのか?ということを大事なポイントと捉えていました」
オダギリの言葉を受けて、阪本監督も「彼の撮影初日の最初のショットを撮った時からフレディ前村にしか見えなかった」と述懐したが、映画を観ればそれは一目瞭然。米ソの突然の合意でキューバ危機が回避されたことを知ったフレディ前村が、やり場のない怒りを露わにするシーンでは、オダギリに本人が乗り移ったかのような迫真の演技を見せている。
「あの日、すごく嬉しかったことが一つあるんです。監督が『OK』と言った時に、少し離れたところで映像をチェックしていたキューバのスタッフのテントから、拍手と『ブラボー!』という声が聞こえてきたんです。現地の人たちにとって、何者かもわからない僕を判断する材料は芝居しかないと思うんです。僕は海外の撮影に臨む時はいつも、芝居で自己紹介をしているつもりだし、それで判断してもらうことが最もフェアで純粋な気がしています。あの時の拍手は、まるでみんなが僕を受け入れてくれたような気がして本当に嬉しかったですね」
「それは、ただの『上手だったよ』という拍手ではないですね」と阪本監督が補足する。「『エルネスト』は日本から企画を持ち込んだ映画だけど、キューバのスタッフたちも自分たちの映画だと思ってくれていた。その自分たちの想いが、オダギリ君の完璧な芝居と繋がったから拍手したんです」
最後に、日本から遠く離れたキューバで、骨太な映画を阪本監督と共に完成させたオダギリジョーにメッセージをもらった。「シネコンにかかる映画が流行りのものばかりになったら、つまらないし、映画ファンは困ると思います。日本映画界の中でもまだこういう作品を作る人たちがいること、シネコンで選ぶ作品の一つに並んでいることの幸せに気づいてもらえたら嬉しいですね」【取材・文/イソガイマサト】