ピーター・ジャクソン版「ロード・オブ・ザ・リング」との関係はこんなところに!最新作『ローハンの戦い』トリビアまとめ
クリーチャー、指輪、救世主、魔法使い…トリロジーへのオマージュが満載!
一方、物語のメインが人間のためか、ファンタジージャンルのキャラクターやクリーチャーは最小限に抑えられている。そういうなかで「ロード・オブ・ザ・リング」からの引用は大鷲と、巨大なゾウ、ムマキル/ムーマク(トリロジーでは「オリファント」と呼ばれていた)。そして水に棲む大きなタコのようなクリーチャー、水中の監視者。トリロジーで大鷲はガンダルフやフロドを助けてくれたし、ムマキルは『二つの塔』と『王の帰還』(03)のミナス・ティリスの戦いでハラドリムの部隊が投入していた。水中の監視者は『旅の仲間』(01)でフロドたちがモリアの洞窟に入る前、水中から触手を伸ばしてフロドに襲い掛かったが、今回はヘラの策略によって暴走したムマキルを呑み込んでくれる。
もう一つ、是非ともチェックしてほしいのは2人のオーク。2人のオークが戦いの犠牲者たちから集めていたのは、なんと指輪!しかもそのセリフは「モルドールはなぜ指輪を?」というものなのだ。モルドール、つまりサウロンは200年前も指輪集めに執着していたということになる。ちなみにオリジナル版でこの2人のオークの声を担当しているのはフロドの旅の仲間のホビット2人組、ピピンを演じたビリー・ボイドと、メリーを演じたドミニク・モナハン。日本語吹替版でも2人を当てた飯泉征貴と村治学が務めているというこだわりっぷりだ。
後半の舞台となるのは『二つの塔』の戦い、“角笛城の合戦”と同じく角笛城ことホンブルグ。攻め寄せてくるウルフの軍団から逃れるためヘラたちは、民と一緒にホンブルグに移るのだが、『二つの塔』ではサルマンの放ったウルク=ハイ軍団から身を守るために同じようにセオデン王と民は同じ城砦に逃げ込んでいた。状況がちゃんとリンクしている。この城砦が「角笛城」と呼ばれるのは、ヘルム王の吹く角笛が敵を震え上がらせていたという伝説があるから。『ローハンの戦い』でも角笛を吹いているし、『二つの塔』の時と同じ大きな角笛が城に設置されている。
もちろん、ホンブルグの外観は(ほぼ)『二つの塔』と同じ。『二つの塔』ではホンブルグの城壁が一部、破壊されているのだが、本作では後半、同じ部分を大鷲が壊してしまう。ということは、その亀裂をちゃんとリンクさせているということ。このこだわりはハンパない。最後の決戦では、ロングウィンターにふさわしい30㎝先が見えないほどの大雪を降らせているのだが、『二つの塔』の“角笛城の合戦”では雨が降りしきっていた(後半、雨は上がるが)。
そんななか、万事休す状態になった時に救世主のごとく現れるのは、ヘルム王に追放されていた甥っ子のフレアラフ。『二つの塔』では、「5日目の朝に帰る」と約束したガンダルフと、セオデン王(正しくはセオデン王を操っていた蛇の舌ことグリマ)に追放された、やはり甥っ子のエオメルなのだ。当然ながら舞台がヘルム渓谷に造られた城砦、ホンブルグ城なので、援軍がずらりと並ぶ場所もほぼ同じ!ちなみにホンブルグ城が位置するヘルム渓谷(ヘルムズ・ディープ)は、ヘルム王の名前に由来する。
原作ではヘルム王の直系の血筋は、この戦いを経て途絶えたことになっていて、本作ではヘラはいとこのフレアラフに王位を譲り、原作と辻褄を合わせている。
そして、ようやく平和を取り戻したローハン王国に現われるのは、あの白い魔法使い、サルマン。彼はここでアイゼンガルドを手に入れて自分の居城にし徐々に悪に染まって行く。ストーリーはちゃんとつながっている!しかもなんとルックスはトリロジーでサルマンを演じたクリストファー・リーであり声も彼。リーはすでに亡くなっているが、『ホビット 決戦のゆくえ』(14)で撮影された際の音声を使用している。ここもファンはびっくりなはずだ。
最後、ヘラは愛馬に乗って旅立つのだが、その目的は「多くの名前をもつ人…ガンダルフという魔法使いがオークや指輪の話を聞きたいといっている」から。そう、ここでガンダルフの名前が口にされる。サルマンを出したなら、ここはやはりトリロジーのアイコンでもあるガンダルフにも目くばせして貰わなければというファンの心をちゃんと汲んでくれているのだ。
というわけで、『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』は、2度以上の鑑賞が絶対にオススメだ。ピーター・ジャクソンのトリロジーを復習して、一度では拾いきれないほど隅々まで張り巡らされたオマージュやトリビアを再確認してほしい。本作がいかに「ロード・オブ・ザ・リング」愛に満ちているかを実感できるはずだ。
文/渡辺麻紀
※記事初出時、一部情報に誤りであったことから、当該部分を修正させていただきました。訂正してお詫びいたします。