ナーグ・アシュウィン監督が語る『カルキ 2898-AD』の制作秘話!「日本のアニメにも影響を受けました」
「脚本を書く時は、ジェンダーを意識していないです」
アシュウィン監督といえば、数々の賞に輝いたテルグ映画『Mahanati(原題)』である。日本ではタミル語版が『伝説の女優 サーヴィトリ』という邦題で2020年に公開され、運命に翻弄される女優サーヴィトリと、記者のマドゥラワーニのひたむきな頑張りに心動かされた人も多い。インドではあまり主流ではない、女性が主人公の作品で人々を惹きつけた監督だが、女性を描写する際に心がけている特別なことはあるのだろうか。
「実は…私は普段、脚本を書く時、ジェンダーを意識していないのです。だからうまくいくのかもしれません。キャラクターはキャラクターであり、彼らはその状況に置かれていて、なにかを無理やり強いているのではありません。ただその状況に正直なだけです。だからこそ、観た人の心に感じるものがあるのかもしれません」。
『カルキ 2898-AD』でも、ロキシーやスマティ、マリアムなど、強い女性が登場している。性別を意識せず人間のドラマを描くという監督の方針に胸を打たれた。
「3人が一緒に映る印象的なシーンはとてもワクワクしていました」
『カルキ 2898-AD』ではインドを代表する俳優たちが共演していることでも話題になった。特に主演のプラバース、ディーピカー・パードゥコーン、アミターブ・バッチャンの3人について、監督が格別に印象深かった思い出はあるのだろうか。
「映画の後半で、プラバースやアミターブ・バッチャン、ディーピカー・パードゥコーンの3人が一緒に映る印象的なシーンがあります。実は撮影していた時、3人一緒だったのはたった数日間だったので、あの場面の撮影をするため現場にいた私たちも、とてもワクワクしていました。劇場公開時には、あのシーンを観客も楽しんでくれたのがわかったので、本当にすばらしい思い出です」。筆者もそのシーンには目が釘付けになったことを伝えると、監督は楽しげな笑みを浮かべた。
「次回作では、スプリーム・ヤスキンの過去の話が登場する予定です」
映画の終盤で衝撃的な展開を迎えた『カルキ 2898-AD』だが、続編の構想はあるのだろうか。インドでのインタビュー記事では、次回作は本作の背景となったカーシー、コンプレックス、シャンバラのほかにも新たな舞台が登場することが示唆されていた。次回作に向けた展開を、差し支えない範囲で教えてほしいと願うと、アシュウィン監督は快く応えてくれた。
「次回作では、スプリーム・ヤスキンの過去の話が登場する予定です。ヤスキンの生い立ち、彼がどこから来たのか、一体なにを計画しているのか…。物語の多くは彼に関するものになるでしょう。そして、新しいステージに入った2人、バイラヴァとアシュヴァッターマンの活躍にも期待してください」。
スプリーム・ヤスキンは、地上最後の都市カーシーを支配する200歳の支配者である。悪役として非常に印象深いキャラクターながら、謎多き存在である。スプリーム・ヤスキンを演じるのは、南インドのタミル映画界の大御所、カマル・ハーサン。彼は200作品以上に出演している演技派俳優であり、『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)の主演ラジニ・カンートと人気を二分する存在でもある。カマル・ハーサンへのヤスキン役への説得には1年がかりだったそうだが、次回作で彼はどのような姿で登場するのだろうか。また、バイラヴァとアシュヴァッターマンの関係も大きく変わると予想される。まだ本作が公開されたばかりだが、すでに次回作への期待が高まる。
上映会で一足先に『カルキ 2898-AD』を観た観客たちは、監督が作り込んだ世界観に圧倒された様子で、エンドロールが終わったあとには盛大な拍手が鳴り響いた。日本人にはあまり馴染みのないインド神話を物語の下敷きにしつつも、これほど受け入れられたのは、監督が影響を受けた映画やアニメなどの文化が、観客たちにとって慣れ親しんだものだったこともあるのかもしれない。若き監督が作った妥協のない映像と新たなインド映画の歴史を、ぜひ目に焼き付けてほしい。
取材・文/天竺奇譚