美術監督がグレードアップしたセットの秘密を明かす!「イカゲーム」シーズン2の撮影現場を独占レポート
配信開始と同時に日本でもNetflix視聴ランキング1位(TV番組部門)を獲得し、人気と注目度をあらためて証明した「イカゲーム」シーズン2。さらに壮絶になったデスゲームに強烈なインパクトを与えているのが、前作同様、ピンクやイエローなど鮮やかなパステルカラーと遊び場を想起させるノスタルジックなデザインだ。不穏な緊張感を高める、恐怖と明るさの対比。シーズン1以上に仕掛けがあるというそのビジュアルは、どのように作られたのか。2023年12月、韓国・ソウル郊外の撮影現場で極秘に行われたセットビジットで明かされた製作秘話を独占レポートする。
ポップな「迷路階段」が象徴する倒錯の世界観
撮影現場に向かうバスに乗る取材陣は、「ソウル郊外のスタジオ」としか知らされないまま、目的地に向かった。まるで、イカゲームの参加者たちが、行先を知らずに車に乗ったかのように。到着すると、ビニール状の袋が渡され、スマートフォンを入れるように指示された。撮影、録音は一切禁止。もちろん、情報解禁日までは口外禁止。キャストやスタッフも情報漏洩は厳禁だったという極秘の撮影現場に、ついに足を踏み入れた。
スタジオの無機質な廊下を進むと、音楽が聞こえてきた。太鼓と笛が奏でるのは、「Way Back then」。そう、「イカゲーム」で流れるあのBGMだ。目の前にどーんと広がる、ピンクとイエロー、グリーンの空間。四角や三角の窓や斜めに高く伸びた階段に、取材陣から「ああ…」とどよめきの声が漏れる。そう、「イカゲーム」シーズン1にも登場した「迷路階段」のセットだ。
三角の窓からひょっこりと姿を現したのは、美術監督のチェ・ギョンソン。シーズン2のセットの裏側をはじめて明かすことについて「ちょっと緊張しながらもワクワクしています」としながら、語り始めた。
「これが『迷路階段』の舞台セットです。シーズン1の時と同じく、エッシャーの作品から着想を得ています。今回は規模を大幅に拡大し、階段のレイヤーをもう一つ追加して全体を150坪ほど広げました。高さもさらに高くなっているので、シーズン1を覚えている方なら『随分大きくなったな』と感じるはずです」
絵画や版画で有名なオランダの芸術家M.C.エッシャーは、錯視効果のあるパラドックス構図で知られている。上に向かっているはずの階段が下に伸びているように見えるなど、入り口と出口がわからなくなるような、不思議な空間感覚を生み出す作風だ。シーズン1の「迷路階段」は、そのエッシャー的な世界を舞台セットとして再現し、大きな注目を集めた。
チェ美術監督によれば、前作のコンセプトは引き継ぎつつも、階段全体はシーズン1より約30%拡大されているという。取材した日は撮影が迫っており、床部分などはペンキ塗りたてのため、参加者が階段を自由に上り下りすることはできない状態だった。
「本当は皆さんにこの階段を体験していただきたかったのですが、撮影直前で仕上げの真っ最中なんです。階段に上ってあちこち回ってみると、『あれ、さっきの入り口がどこにあるんだろう』という不思議な感覚を味わえるはずです。実際、シーズン1ではスタッフや監督も『どこから出入りすればいいのか分からない』と混乱していました(笑)」
シーズン1と同じく迷路階段の基調カラーは印象的なピンクがメインだ。その理由についてチェ美術監督は、「残酷で緊張感のあるゲームの空間と対照的に、どこかポップで無邪気な雰囲気を表現したかった」と説明した。生死をかけた舞台でありながら、一見すると子どもの遊び場やおもちゃ箱を彷彿とさせるような色づかい。そこに「イカゲーム」特有の倒錯感や不安感が生まれるのだ。
「私は子どもの頃からエッシャーのパラドックス構図が大好きで、「いつか自分のデザインに活かせたら」思っていました。『イカゲーム』の脚本を初めて読んだ時、この作品なら実現できる!と確信したんです。シーズン2はさらに拡張され、撮影の動線も複雑になっています」
エグゼクティブプロデューサーのキム・ジヨンは、この「迷路階段」がシーズン2でも重要な出会いと対立の場になると語る。
「この階段は、生存者だけが通れる場所です。ゲーム会場から宿舎へ戻る経路で、A地点からB地点へ移動する際にここを必ず通ります。シーズン1でも、ここで運命的な出会いがあったり、衝突が起こったりしましたよね。シーズン2では規模が大きくなった分、思いもしない新たな展開が生まれます。『ここで初めて話をする相手が、実は…』というドラマがいくつも待ち受けています」
視覚的なインパクトだけでなく、物語の起点としても機能しているのが「迷路階段」だ。登場人物たちの互いの関係性、裏切りや協力といった要素が、不思議な空間の中で交錯する。シーズン2のクライマックスには、階段の複雑な要素を生かした激しい銃撃戦も繰り広げられる。