美術監督がグレードアップしたセットの秘密を明かす!「イカゲーム」シーズン2の撮影現場を独占レポート
光る◯と×が映しだす絶望のコントラスト
続いて公開されたのが、シーズン1でも大きな話題を呼んだ「宿舎」のセットだ。シーズン1では、壁に隠されたゲームのヒントや、参加者たちが次々に脱落していくたびにベッドが減っていく演出が話題となった。シーズン2では宿舎は大幅にアップデートされ、新たなルール「◯×投票システム」が導入されたことで、その存在感はさらに増している。
「各ラウンドが終わった後、生き残ったプレイヤーたちはここに集まり、『ゲームを続けるか、やめるか』を投票しなければなりません。中央にある緑の箱に◯と✕のボタンがあり、一人ひとりが前に出て押す。そして投票結果によって、◯か×のバッジを受け取り、上着につけるんです」
キムプロデューサーは、こう説明した。投票結果はビジュアル的にも一目瞭然で、参加者同士は「続行派(◯)」と「中止派(×)」に分かれて対立する。その対立構造や心理戦は、シーズン1以上に緊迫感を生む。
さらに、美術監督のチェ・ギョンソンによると、◯と✕のデザインにも工夫が凝らされているという。
「当初、ネオンライトやペイントを使おうと考えましたが、最終的にはLED照明を使うことにしました。部屋の照明を全部落としたとき、青い◯と赤い×がくっきりと浮かび上がるようにしています。赤か青かという2つの色のコントラストは、政治的対立や正誤の象徴とも捉えられ、非常にわかりやすく対立構造を表現できるのです」
シーズン1でも宿舎は暗い空間だったが、今回はさらに暗さを強調した。その分、◯と×の光がより際立ち、観る者に強い印象を与える。3~4メートル高くなった天井は、巨大な「監獄」あるいは「闘技場」のような威圧感を演出する。
さらに興味深いのは、チェ美術美術監督が宿舎のモチーフを考える際に、「見捨てられた人々」を意識してデザインしたという点だ。シーズン1を始める段階で「世の中から見放され、最後のチャンスをかける人々の暗喩」として大部屋を設計したとし、アーチ状の出入り口とタイル張りの壁についてこう明かした。
「あるとき、高速道路のトンネルの形状が目に留まって、『この曲線を壁面に取り入れたい』と思いました。白いタイル張りの壁も、トンネルの質感をイメージしています。人々が出口の見えない闇を進むような、この閉塞感こそがイカゲームの宿舎にふさわしいと感じたのです」
シーズン2はシーズン1以上に「生と死」にフォーカスしている、とチェ美術監督は話す。そのアイデアが、迷路階段や宿舎のデザインにも反映されているという。生き残る者は階段を通り、宿舎で◯か✕を選択して次のステージへ進む。しかし投票の結果次第ではゲームを中止できる可能性もある。キムプロデューサーも、そうした設定が、いままさに世界が抱えている「分断や対立」の構造にも重なるのだと語った。
「世界中でいま、政治的・社会的な対立が深刻化していますよね。どちらの側に立つのか、何を選ぶのか。対立が深まるほど、緊張感や人間ドラマが増幅され、観る人に一層の衝撃や共感を与えるはずです」
最後に、本作を指揮するファン・ドンヒョク監督にも尋ねてみた。シーズン1で世界的ブームを巻き起こした中、シーズン2のセットはどのような方針で作られたのか。「既存の迷路階段や宿舎のコンセプトは、あえてそのまま活かすようにしました。シーズン1で築いたビジュアルイメージを踏襲しつつ、少しずつアップグレードして、より複雑な仕掛けを加えたんです」。
ファン監督によれば、視聴者が「ああ、ここはシーズン1と同じだ」と懐かしみながらも、よく見ると「おや、こんなところに仕掛けがある」と思えるような演出を目指したという。世界中のファンが考察したり、SNSで拡散したりする素材として、ビジュアル面でも大きな挑戦をしているのだ。
今回公開されたセットの数々は、単なる背景ではなく、いわば物語のテーマを支える「もう一人の主役」ともいえるだろう。迷路階段は登場人物たちを翻弄し、宿舎は参加者たちの命運を左右する舞台となり、両者をつなぐ投票システムが対立と分断をあぶり出す。すべてが連動した瞬間、『イカゲーム』の世界観が再び観る者を虜にしていくはずだ。
文/桑畑優香