『セブン』から『ロングレッグス』へ…“サイコホラー”が再びトレンドを巻き起こす!
来る3月14日(金)に公開される『ロングレッグス』は、2024年の夏に本国アメリカで大反響を呼んだサイコホラーだ。A24に続く新興の独立系映画会社として脚光を浴びているNEONが北米配給を手がけ、過去10年における独立系ホラーの全米興収最高記録を更新するなど、破格の大ヒットを飛ばした。
物語の舞台は1990年代半ばのオレゴン州。FBIの若き女性捜査官リー・ハーカー(マイカ・モンロー)が、ある未解決事件の捜査チームに抜擢される。ごく平凡な家族の父親が妻子を惨殺したのち、自らも命を絶つという不可解な殺人事件が過去30年間で10回も発生しているのだ。現場には“ロングレッグス”という人物の署名付きの暗号メッセージが残されていたが、現場には外部からの侵入者の痕跡が一切ない。はたしてハーカーが追う正体不明の連続殺人鬼ロングレッグスとは何者なのか…。
サイコホラー、サイコスリラーはサイコロジカル・ホラー/スリラーの省略形で、登場人物の心理的な混乱、不安に焦点を当てた恐怖映画のサブジャンルを指す。また、精神病質者(サイコパス)が引き起こす犯罪を題材にした作品もこのジャンルに含まれ、1990年代にサイコスリラー・ブームを巻き起こしたジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙』(91)、デヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』(95)がその代表作である。
サイコスリラーの要素を“全部乗せ”しながらオリジナリティを獲得した『ロングレッグス』
『ロングレッグス』には、1990年代以降に話題を呼んだサイコスリラーの趣向がふんだんに凝らされている。新米捜査官のハーカーが難事件に身を投じていく導入部は、『羊たちの沈黙』の主人公クラリス・スターリング(ジョディ・フォスター)を彷彿とさせる。神出鬼没の殺人鬼が独自の法則に従って犯行を繰り返す設定は、『セブン』のジョン・ドゥ(ケヴィン・スペイシー)のよう。さらに、ロングレッグスが直接手を下さずに殺人を重ねていく手口の不可解さは黒沢清監督の『CURE』(97)を思わせるし、奇怪な暗号文というモチーフはフィンチャー監督の『ゾディアック』(06)を想起させる。
『ロングレッグス』の物凄さは、上に記した代表的なサイコスリラーの要素を“全部乗せ”しながらも、圧倒的なオリジナリティを獲得していることにある。最大の見どころは、ニコラス・ケイジ扮するロングレッグスの特異なキャラクターだ。ケイジは作品ごとにヘアスタイルや服装をがらっと変える怪優として名高いが、彼にとってキャリア初のシリアルキラー役となるロングレッグスの容貌、挙動は何もかも常軌を逸している。ロングレッグス=ケイジの登場シーンすべてが、強烈なジャンプスケア描写と言っても過言ではないほどの絶大なインパクトだ。にもかかわらず、NEONは全米公開前にロングレッグスをあえて“見せない”宣伝戦略を実施し、観客の好奇心をあおってサプライズ効果を高めることに成功した。日本の配給会社、松竹による特報予告でもロングレッグスの風貌をうかがい知ることはできない。
しかもロングレッグスは悪魔崇拝者だ。この点が極めて重要で、『羊たちの沈黙』『セブン』風の“王道サイコスリラー”として滑りだす本作は、中盤以降にこの世ならぬ驚きに満ちた“ホラー”へと変容していく。オカルト的なシンボルや精巧な等身大の少女人形などのアイテムもちりばめられた映像世界は、得体の知れない謎と狂気が渦巻き、想像を絶するクライマックスへと突き進んでいくのだ。
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