長塚京三、映画『敵』公開記念舞台挨拶で撮影を振り返り笑顔!「人がたくさん集まるシーンで楽しかった」
映画『敵』(公開中)の公開記念舞台挨拶が1月18日、テアトル新宿にて行われ長塚京三、瀧内公美、松尾諭、松尾貴史、吉田大八監督が登壇した。第37回東京国際映画祭で東京グランプリ、最優秀男優賞、最優秀監督賞の3冠を受賞した本作は、アジア・フィルム・アワードの作品賞、監督賞、主演男優賞など6部門へのノミネートをはじめ、海外からの注目度も高い作品となっている。
筒井康隆の同名小説を映画化した本作は、穏やかな生活を送っていた独居老人の前に、ある日「敵」が現れる物語をモノクロ映像で描いている。長塚は大学教授の職をリタイアし妻に先立たれた後、祖父の代から続く日本家屋にひとり暮らす主人公の渡辺儀助を演じている。
コロナ禍に原作を読みだしたという吉田監督は「映画にできるのかな、そもそもこの先、映画の撮影ができるのかなと思っていたころ。そのころの気持ちを思えば、今日のように華やかな初日を迎えられるのは夢のような気がします」と挨拶。満席の客席から大きな拍手が湧き上がるなか「パッと目が覚めたら5年前に戻るんじゃないかな?という気持ちもあります」とし、まだ心の整理がついていないと正直な気持ちを明かしながらも、「とてもありがたいことです」と感謝した。
公開前から高評価を得ていた本作。「公開前の前評判はプレッシャー以外のなにものでもない」と話した長塚は現在の心境について「正しくカミングアウトできたかな、というところ。そうだったらいいなと思っています」と穏やかに微笑んだ。長塚との共演シーンで印象に残っているのは「2人でのアクションシーン!」と2人であるものを運ぶシーンを挙げ笑顔を見せた瀧内。多くの人数で鍋を囲むシーンも思い出深いとし、「微妙なニュアンスでやりました。その繊細さがおもしろかったです」と振り返り、「そこにいる長塚さん演じる儀助さんがあまりにも怯えていた感じがして。新しい一面を見た感じがして印象深かったです」と笑みを浮かべた。
鍋を囲むシーンについて長塚は「僕はずっと一人のシーンが多かったので、大勢出てくるとても楽しいシーンでした」とニッコリ。「人数が多い分だけ、監督は整理が大変だったと思います」と吉田監督の演出に心を寄せながら、「(そのシーンで)伝えたいことを伝えるのは概ねうまくいきました」と充実感を滲ませ、「監督の采配でうまくいきました」と労う場面も。吉田監督も「あの家にお客さんが来ることは少ないので、パーティーみたいだった。撮っていても楽しかったです」とうれしそうに報告していた。
「飲み屋や喫茶店で長塚さん演じる儀助と会話をしているシーン」が印象に残っているという松尾(貴史)は「儀助さんがいま思いついて言葉を発しているような感じがしました。でも、(実際には)リハーサルと同じことを言っている」とし、作品と同じように「実像」と「虚像」のようなものを感じ、不思議な感覚があった様子。感覚的なことで説明するのがとても難しいとしつつ、ふと思い出したように「鍋のシーンはうらやましかったです!」とそのシーンに参加が叶わぬ役だったことを残念がり、笑いを誘っていた。
同じく鍋のシーンに参加できなかった松尾(諭)は、「僕の役はほとんど家のなかに入っていない。入れてもらえませんでした(笑)」としょんぼり。印象に残っている長塚との共演シーンは「縁側で話をするシーンです。とても緊張感のあるシーンな上に、映画はモノクロ。小津(安二郎)の世界に引き込まれたような感じになりました」とし、台詞回しも小津作品のようになるんじゃないかなと思うこともあったという。「テストの時から長塚さんがギアの上がる感じが伝わってくる。儀助さんに引っ張られたというか、儀助さんが引き寄せてくださった印象があります」と感想を伝え、「鍋のシーンはうらやましかったし、もっと一緒にお芝居をしたかった。なんなら一緒にお風呂にも入りたかったです」と長塚への思いを強調していた。
シーンで一緒になる役者によって表情が変わる長塚に対して「ワクワクして楽しかった」と語った吉田監督。「これまで演技で反射という言葉にピンと来なかったけれど、こういうことなのか!と思いました」とよろこんでいた。
イベントでは作品にちなみ、将来に向けてやっていることを発表するコーナーも。「フランス語をブラッシュアップしようかな」と語った長塚に、会場が感心していると「冗談ですけれどね」とニヤリ。将来のことを考えるのがあまり好きではないという瀧内だったが、「最近、合作や海外のお仕事の話があるので、英語を極めていきたいなと思っています」と宣言。同じく将来のことを考えるのが苦手という松尾(貴史)は「基本的に無計画。計画めいたことをやろうと思った時期もあったけれど、世の中の動きが計画通りじゃないから…」と話し、やるとしたら「関西弁のブラッシュアップ!?」と言語のブラッシュアップに触れた長塚、瀧内に続く。映画では関西弁のイントネーションでセリフを言っている松尾(諭)は「お付き合いしますよ!」とニコニコ。松尾(諭)は「言語系を言わなきゃかもだけど…」と前置きし、「まっすぐ立つことは俳優としてとても大事。なので、足指を鍛えています!」とし、「腰とか肩こりにもいいですよ、奥さん!」と会場、そしてムービーカメラに向かっておすすめし、観客を笑わせた。
最後の挨拶で吉田監督は16日に逝去が明らかとなったデヴィッド・リンチに触れ、「これまでこの映画はハッピーエンドだと思います、と理由もなく言ってきました。デヴィッド・リンチ監督が亡くなって、彼の過去のインタビュー記事をたくさん読んでいたのですが、そのなかにとても美しい言葉を見つけました」とし、それらの言葉を受け、「(この映画を)ハッピーエンドと考えてよかったんだ、と思える美しい言葉がありました。この映画と直接関係のある話ではないけれど、ぜひ、探して読んでみてください」といろいろと考えさせられるヒントもあると呼びかけ、イベントを締めくくった。
取材・文/タナカシノブ