第82回ゴールデン・グローブ賞の受賞結果から分析する、第97回アカデミー賞の動向
1月5日に米ロサンゼルスで行われた第82回ゴールデン・グローブ賞は、映画カテゴリーで『ブルータリスト』(2月21日公開)と『エミリア・ペレス』(3月28日公開)が、テレビシリーズカテゴリーで「SHOGUN 将軍」が複数の賞を受賞してトップに立ち、それ以外の作品はほぼ1部門ずつ賞を分け合う結果に。2023年のハリウッドのWストライキによって公開作品数が大幅に減り、“本命なき賞レース”と言われる2025年のアワードシーズンの幕開けとなった。ゴールデン・グローブ賞が行われた2日後に、ロサンゼルスでは広範囲で山火事が勃発。数々のプレミアやイベント上映が中止になったほか、第97回アカデミー賞のノミネーション投票締め切りも延長し、発表も予定より約1週間遅れの1月23日に行われることになった。ハリウッド関係者に被災者も多く、授賞式開催可否、開催したとして内容に関する議論が活発に行われている。未曾有の山火事災害は、アワードレースにも大混乱をもたらすこと必須である。
その中でもテレビシリーズカテゴリードラマ部門で作品賞、主演男優賞(真田広之)・女優賞(アンナ・サワイ)、助演男優賞(浅野忠信)の4部門に輝いた「SHOGUN 将軍」は、北米だけでなく日本でも大きく報道された。NYタイムズは「最も誠実なスピーチ」に浅野忠信の自己紹介スピーチを選んでいる。会場をうめた1000人あまりの招待客は彼の受賞を心から祝い、率直なスピーチに拍手し、この夜最も祝福された時間となった。
同じくベスト・スピーチに挙げられるのは、映画カテゴリーのコメディー/ミュージカル部門で主演女優賞を受賞したデミ・ムーア。ニコール・キッドマンやゼンデイヤ、シンシア・エリヴォといった強豪が並ぶなか、栄冠を手にしたムーアは驚きを隠せず「ポップコーン女優(映画館でヒットする映画に出演する女優)」と呼ばれた過去を振り返り、このような賞には縁がないと思っていたと、心のこもったスピーチを行った。
さらに、映画カテゴリーのドラマ部門で、ブラジルの『I’m Still Here(原題)』に主演したフェルナンダ・トーレスが受賞する最高のサプライズもあった。
ゴールデン・グローブ賞では、いわゆるハリウッド映画やアメリカ製作の映画だけでなく、海外作品・外国語作品が受賞する例が増えている。今年は長編アニメーション賞をラトビアの『FLOW』(3月14日公開)が受賞、監督部門に『エミリア・ペレス』のジャック・オディアール監督のほか、インドのパヤル・カパディア『All We Imagine as Light(原題)』もノミネートされている。昨年も宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』(23)が長編アニメーション賞を受賞し、フランス人監督・脚本家のジュスティーヌ・トリエとアルチュール・アラリが『落下の解剖学』(24)で脚本賞を受賞した。俳優部門でフィンランドのアルマ・ポウスティ(『枯れ葉』)、ドイツのザンドラ・ヒュラー(『落下の解剖学』)といった国際的な俳優のノミネートが定例となり、これらの結果はアカデミー賞にも影響を及ぼす。フランスのジャック・オディアール監督がメキシコを舞台にスペイン語と英語で撮った『エミリア・ペレス』が、アカデミー賞においてどこまで票数を伸ばせるかにも注目が集まる。
ドラマ部門で3部門受賞となった『ブルータリスト』は、昨年のヴェネチア国際映画祭でブラディ・コーベット監督が銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞、A24が北米配給権を取得している。インターミッションを挟む3時間35分の長尺映画は、12月の北米公開時に4館、ゴールデン・グローブ賞受賞直後に8館、翌週末より68館で上映し、現在までに274万ドル(約4億3000万円)を稼いでいる。A24は『ブルータリスト』のほか『A Different Man(原題)』でセバスチャン・スタンがミュージカル/コメディ部門主演男優賞を受賞し4部門受賞。Netflixは『エミリア・ペレス』で4部門受賞し、スタジオ別で同位につけている。一方のテレビシリーズカテゴリーは、約半年前の昨年9月に行われた第76回プライムタイム・エミー賞の受賞結果をほぼなぞるような結果となった。エミー賞候補作品締め切り後の昨年6月以降にも、新しいドラマシリーズは多く放送・配信されているのに、このような結果になったのは、世界85カ国334名の投票者(編集部注:海外投票者のうち一部のみテレビシリーズにも投票)は、アメリカのテレビ業界で働くエミー賞投票者と同じようなテイストを持っているか、あるいは総じてテレビシリーズを観ていないということではないだろうか。
前述したように、ロサンゼルス都市圏で起きた山火事によって、アカデミー賞に向けたアワドキャンペーンが予定通り行えない状況になっている。2021年のパンデミックと2023年の脚本家協会と俳優組合のストライキから復活し、ようやく対面イベントが増えてきた矢先の惨事だった。街の様子と人々の心情は様変わりし、ゴールデン・グローブ賞のお祝いムードがすっかり消えてしまっている。ロサンゼルス、およびハリウッドは未曾有の災害から復活し、第97回アカデミー賞を無事に迎えることができるのだろうか。
文/平井伊都子