「いろんな決断を下す時に、重要なのはそのスタッフやアーティストとのコミュニケーション」(押山)
押山「具体的な制作のお話もぜひ聞きたいのですが、そういう絵コンテを切ったりストーリーボードを描いたりする時は、ほかのスタッフのアイデアや意見を盛り込みつつ、最終的にクリスさんが決定を下すというプロセスなんでしょうか?」
サンダース「絵コンテは基本、ストーリーチームが手掛けていて、そのヘッドの人がアーティストたちと日々コンタクトを取ってくれています。一つ例を挙げると、ロズが渡り鳥の卵と出会うシーン。クマに追いかけられる過程で鳥の巣が壊れ、卵が一つだけ残るわけですが、その一連のシーンは担当してくれたアーティストの描いてくれた絵コンテのままです。というのも、私の頭にあるイメージとおりだったから。クリアに映像が見えていることが重要だと思いますね」
押山「なるほど。クリスさんは、全体的には何%くらい担当されているんですか?」
サンダース「私が絵コンテで担当するのは全体の15%くらいかな。重要なシーンや大がかりなシーン、本作でいうなら渡り鳥たちの飛翔のシーンなどは私が描きました。とても重要な瞬間だからです。ドローイングはかなり自分でやっているほうだと思いますよ。本当はもっと自分で描きたいんですが、スケジュールが許してくれないから、なかなかそうはいかない。それでもなぜ自分で描きたいかって、もちろん楽しいからですよ。押山さんも同じですよね?」
押山「はい、わかります。でも、ドリームワークスのような大きなスタジオでも時間がないものなんですか?ストーリーボードは通常、完成したシナリオを基に描くと思うんですが、そのあとのタイミングで変えることはあるんでしょうか?もしこの作品で大きく変わったところがあれば教えてください」
サンダース「”変わった”というより“進化した”という言葉を使いたいかな(笑)。日本と違って、アメリカでは制作に入っても直しが可能な体制になっているので変えることもありますが、今回は少なかったですね。それとは異なるシチュエーションですが、かなり試行錯誤したシーンはありました。ロズが起動して初めて島を歩き回る、冒頭のシーン、実はここ、最後に描いたところなんです。なんと100バージョンくらい違うアイデアがあったんですよ。もちろん、それをすべて実際に描いたわけではないけど、かなり時間をかけて決めていき、自信が持てるものにしてから作業に入りました。確かにあとから手を加えられる体制になっているとはいえ、お金と時間は削りたいですから」
押山「確かにそうですよね。ちなみに、クリスさんは決断を下す時、優柔不断なほうですか?それとも即決できるタイプですか?」
サンダース「決めるのは早いほうです。1回決めたらあとから変えることはしません。それは心掛けていますね。なにが正しいと感じるのか?アイデアが固まっている部分と、まだあやふやというところ、その2つを見分ける力はつけてきたと自負しています」
押山「いろんな決断を下す時に、重要なのはそのスタッフやアーティストとのコミュニケーションですよね。100ものアイデアが出てきて、そこから一つに絞る時、スタッフの機嫌を損ねてしまうことってありませんか?クリスさんがどういうふうにコミュニケーションを取っているのかすごく気になります」
サンダース「押山さん、それはめちゃくちゃいい質問ですよ(笑)。その100バージョンあったシーンを例にあげると、そんなにアイデアが挙がった理由はいろんなチームから意見が出たからなんです。ストーリーアーティスト、ストーリーチーム、編集からも出ました。私はそういう時、みんなを集めて自由に意見を交換するようにしています。押山さんもわかると思いますが、いろんな意見が出るシーンって集中しちゃうんですよね。みんな、同じシーンが気になる。それは私も同じで『ああ、やっぱりこのシーンだよな』と思う場合が多いんです(笑)」
押山「たくさんのスタッフやアーティストがいても、そうやってコミュニケーションを取っているのはとてもいいですね。皆さんと答え合わせができるわけですから。日本の場合は少人数で作っているプロジェクトが多いにも関わらず、みんな集まって現場でディスカッションするみたいなことはあまりありません。様々な視聴者はどういうところに違和感を抱くのか?というような答え合わせを監督もしづらい状況なんです」