『フロントライン』監督&プロデューサーが忘れないでほしいと願う、未知のウイルスに立ち向かった日々、ささやかな日常をすばらしいと思える気持ち
世界規模で人類が経験した新型コロナウイルスの事実に基づく物語をオリジナル脚本で描いた映画『フロントライン』(6月公開)。「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」シリーズなどを手掛けた増本淳が企画・脚本・プロデュースする本作では主演に小栗旬を迎え、メインキャストとして松坂桃李、池松壮亮、窪塚洋介らが共演。監督は『かくしごと』(24)の関根光才が務める。
物語の舞台は、2020年2月3日に横浜港に入港し、その後日本で初となる新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」。乗客乗員は世界56か国、3,711名。横浜入港後の健康診断と有症状者の検体採取により10人の感染者が確認され、日本が初めて治療法不明の未知のウイルスに直面することに。そんな状況下で駆けつけたのは、家族を残し、安全な日常を捨てて「命」を救うことを最優先にした医師や看護師たちだった…。
本作で描かれるのは、ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に入港した2020年2月3日から乗客全員の下船が完了した2月21日までに、未知のウイルスに立ち向かうDMAT(Disaster Medical Assistance Teamの略)を中心とした人々の物語。DMATとは災害医療を専門とする医療ボランティア的組織で、医師、看護師、医療事務職で構成され、大規模災害や事故などの現場におおむね48時間以内から活動できる専門的な訓練を受けた災害派遣医療チームだ。企画・脚本・プロデュースの増本は、なぜダイヤモンド・プリンセス号の物語にたどり着いたのか、ドキュメンタリー映画も手掛ける関根監督がエンタテインメント作品として本作を届けることにどのような意図があったのか。完成までのプロセスや作品に込めた想いを明かした。
「遠い世界の知らない人たちの話、ではなく自分の物語として観てもらえるはず」(増本)
——なぜ、ダイヤモンド・プリンセス号での出来事を映画にしようと思いついたのでしょうか?
増本「医師や看護師に限らず、自ら望んでではなく、結果的に巻き込まれる形で命懸けで自分たちの職務に向き合わなきゃならなかった人たち、みんなに焦点を当てたいという想いがありました。コロナはほぼ全世界の人たちが経験したこと。映画ですべてを描くのは難しい。いろいろな制限があるなかで、僕たちなりにコロナというものを解釈し、ある種記録として残しておきたい考えた時に、このクルーズ船内で起きた出来事は、世界規模のコロナ禍という出来事の凝縮された姿なのではないかと。そのあと世界で巻き起こっていくであろういろいろな問題が、限定された人数と空間で、ちょっと先行して起きていたのがあの船の中。きっとどこかに自分のコロナ禍の体験に通ずるものを感じてもらえるはず。遠い世界の知らない人たちの話、ではなく自分の物語として観てもらえるはずと考えました」
関根「増本さんの脚本を読んだ時に感じたのは、DMATの仕事について僕自身も知らないことがたくさんあるということ。映画にすることでいまの日本の状況についても考えるきっかけになるのではと思いました。増本さんが、船内では、全世界で起きていることが凝縮されているとおっしゃっていましたが、僕は日本の凝縮とも感じていて。日本の政治体制や政治の運用のされ方、医療現場で起きていること、緊急時に板挟みになっている人がいること、そして被害を被っている人がいることなどが凝縮されていると感じてすごく興味深いと思いました」