賞レースを席巻する『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー。「『戦場のピアニスト』での経験が本作に活かされた」

インタビュー

賞レースを席巻する『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー。「『戦場のピアニスト』での経験が本作に活かされた」

「僕にとって、ラースローの30年を演じ切るのは挑戦でした」

 【写真を見る】『戦場のピアニスト』以来、2つ目のオスカー獲得なるか?『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー
【写真を見る】『戦場のピアニスト』以来、2つ目のオスカー獲得なるか?『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー[c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures

ブルータリスト』でブロディは、主人公ラースローの30年にもおよぶ人生を体現する。ここで彼が使った言葉が「Arc(アーク=弧)」だ。「僕にとっても30年を演じ切るのは挑戦でした。でも役を選ぶ時に、挑戦は重要なポイントで、要求されるものが大きいほうが自分の成長を実感できて楽しいんですよ。今回はこれまでにないほど長いアークを生きるチャンスであり、ラースローの人生の旅、その連続性を意識しました。彼がどのように年齢を重ね、進化するのか。それぞれの時点の特有の感情やセンス、身体性があるわけで、その変化を探究する醍醐味がありましたね」。

文化やルールも異なるアメリカでの設計作業に、多くの困難が立ちはだかる
文化やルールも異なるアメリカでの設計作業に、多くの困難が立ちはだかる[c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures

ラースローの建築への野心、つまり仕事への情熱も本作の肝になっているので、そこにブロディの俳優としての野心が重なったのかを聞いてみる。すると彼は「その質問は予想外」という表情で少し考え、ゆっくりと自身の思いを吐露した。「たしかに僕の俳優としての野望は、ラースローのそれにオーバーラップしました。彼の野心に間違いなく共感しています。彼の創造性には深い部分で憧れますし、粘り強さも僕が常にリスペクトするもの。これらは(ラースローや僕のような)情熱を持つ人間の共通項でしょう。そうした要素があるから、芸術家の運命がおもしろくならないはずはないのです」。

 ラースロ―の妻エルジェーベトを演じたのはフェリシティ・ジョーンズ
ラースロ―の妻エルジェーベトを演じたのはフェリシティ・ジョーンズ[c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures

『ブルータリスト』のブロディを観た多くの人が、ホロコーストを生き抜いた『戦場のピアニスト』のシュピルマン役を思い出すはず。彼はこの2つの作品の関係をどう捉えているのだろう。「『戦場のピアニスト』は僕の創作人生において、ひとつの“柱”になりました。600万人もの失われた命を背負い、ナチス占領下の人々の苦難や喪失感を表現するのは、当時若かった僕には重責でした。その状況を唯一無二の役として成立させるため、かなり没頭したわけです。あれから多くの役を演じ、キャリアを積んできても、『戦場のピアニスト』での記憶は、昨日のことのように僕の心に甦ります。あの経験が、若かった僕の視点とその後の前進を形成しました。それは演技だけではなく、人生の儚さを愛おしむこと、善良な心を保ち続けること、世界にはびこる残虐な行為の犠牲になる人への思いなどを“忘れずに生きていこう”という僕の原点にもなりました。その思いこそ、『ブルータリスト』で役立ったこと。ラースローが祖国に何を残し、どんな希望を持ってアメリカへ来たのか。そしてユダヤ系移民として何に直面し、周囲からの敵意と不寛容をどう受け止めたのか。これらを理解することができたのです」。

実業家ハリソンを演じたのはガイ・ピアース
実業家ハリソンを演じたのはガイ・ピアース[c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures

その『戦場のピアニスト』以来、ブロディは『ブルータリスト』で2つ目のオスカーを獲得するかもしれない。そこに話を向けると、彼からは控えめなコメントが返ってきた。「正直に言って、僕はこの映画に対する賞賛や愛、そして自分が参加できたことにシンプルに感動しています。そして、それ(アカデミー賞)の結果は、なるようにしかならないわけで、謙虚な気持ちでいます。僕にとっての達成感は、本作を世界と共有できたこと。そこがゴールであり…ただもちろん、こうした(賞に関わる)会話に自分の名が出てくることにエキサイトしますけどね(笑)」。

俳優、エイドリアン・ブロディにとって重要なのは、身も心も本気で捧げた作品が、多くの人に届くことで、2つ目のオスカーはあくまでも“ご褒美”に過ぎない。この真摯な姿勢を貫くことで、数年後、また最高の作品と巡り合い、自身を進化させるチャレンジをこなせることを、彼は知っているのだろう。


取材・文/斉藤博昭

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