イエモンが見せた素顔とは!?松永大司監督が密着取材の舞台裏を語る!
2001年に活動休止後、15年ぶりに再集結し、約1年間で全42公演、36万人を動員したロックバンドTHE YELLOW MONKEY。彼らの怒涛のような復活劇に密着したドキュメンタリー『オトトキ』(11月11日公開)を手掛けたのは、『トイレのピエタ』(15)の松永大司監督だ。吉井和哉率いるメンバーたちのライブ活動だけではなく、彼らの無防備な素顔も活写した松永監督にインタビュー。
性同一性障害の現代アーティストを追ったドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』(09)で注目された松永監督。2015年に監督した初の長編劇映画『トイレのピエタ』も高い評価を受けたが、本作で再びドキュメンタリーのメガホンをとった。『ピュ~ぴる』と同様に、松永監督作は被写体との距離感が近く、映し出される表情は非常に生々しい。
「ドキュメンタリー作家には色んなタイプがいて、自分が入ることで化学反応を意図的に起こしていく人もいれば、僕のようになるべく自分のカメラが邪魔にならないように意識して撮るタイプもいます。僕は被写体の人たちがどれだけカメラを意識しないかを優先します」。
ちなみに松永監督はタッパがある。身長180cm前後のメンバー4人と並んでも引けを取らない高さで、すいすいと小回りがきくサイズではないのだ。「メンバーの方々から『監督の居方は独特だ』とずっと言われていました。吉井さんからは『監督は盗撮が上手い』と言われましたが、それって褒め言葉じゃないですよね(苦笑)。『いつ撮っているのかまったくわからないし、撮られていることも忘れちゃう』とも言われました」。
おそらく松永監督は、まず撮影対象の懐に飛び込み、空気のように馴染んでしまうということだろう。「僕はこれまでドキュメンタリーを撮ってきた中で『ここは撮らないで』と言われたことはないですし、ちゃんと節度も心得ています。だから撮られる側も僕がパパラッチ的な撮り方をしないとわかってくれているんじゃないかと。でも、実際はギリギリのラインだったりすることもあります」。
松永監督は「カメラは凶器」と捉えている。「最初からそれを振り回さない。無理にこじ開けても撮れないから、まずは人として信頼してもらって、その先で撮っていく感じです」。
とはいえ、吉井が亡き父親への思いを吐露したり、ギターの菊地英昭とドラムスの菊地英二兄弟が病床の父親について語ったり、ベースの廣瀬洋一が愛息と笑顔を見せたりと、プライベートな顔もしっかりと撮り上げている。共通するのは“家族”というテーマだ。
「最初に全体のテーマをどうしようかなと考えていましたが、撮り始めたら、ああ“家族”なんだと思いました。自分の家族はもちろん、バンドのメンバーも含めて家族なんです」。
また、吉井の声がコンサート中に出なくなるという衝撃的なアクシデントもカメラに収められている。「あれは撮り始めてからかなり時間が経っていて、信頼関係ができていたからこそ撮れた映像でした。吉井さんもよくあんな間近で撮らせてくれたなあと。この前釜山映画祭に一緒に行った時、吉井さんが『あれは監督の演出でやらされたんです』とジョークを言ってました(笑)。本当に僕をそこにいさせてくれたこと自体がありがたかったです」。
怖いもの知らずの松永監督は、撮影終盤で吉井たちに「撮影用に観客なしでライブをやってほしい」と申し出た。「演奏が撮りたいというよりは、彼らの顔が撮りたくて。ライブシーンだと、ギターの手元まで入ったサイズで撮るけど、僕はそこには興味がなくて、もっと寄りのシーンが撮りたかったんです」。
前代未聞の客のないライブ。吉井は歌っている最中でくるりと向きを変え、メンバー3人の演奏を改めて見つめ直す。その表情には長年、苦楽を共にしてきた“家族”としてのメンバーに対する愛情やねぎらいが込められていた。
「あの瞬間、本当にやってよかったと思いました」と手応えを口にする松永監督。「吉井さんに『僕の提案をよくOKしてくれましたね』と言ったら、吉井さんが『それは監督との信頼関係があるから。他の人がやろうと言ったら嫌だと言うよ』と言ってくれて。本当に感謝しています」。
THE YELLOW MONKEYの人間としてのクールさや人間くささが余すことなく映し出された『オトトキ』。本作は音楽ドキュメンタリーというよりは、人間を映した珠玉のドキュメンタリーに仕上がっている。【取材・文/山崎伸子】