『2001年宇宙の旅』から富士山まで、ゴア元米副大統領が語る映画の魅力と日本の風景
地球温暖化の警鐘を鳴らし、大きな反響を巻き起こした前作から10年。その続編『不都合な真実2:放置された地球』(11月17日公開)で、引き続き「気候変動による危険に関する情報を世界に提供した」と元アメリカ合衆国副大統領アル・ゴア。10年間で世界は何が変わったのか。何が変わっていないのか。終わりのない闘いを続けるゴアが、“映画”に対する思いや、自身のバイタリティの源を語る。
鑑賞体験をリアルに共有できるのが映画の強み
世界中でゴアが行っているセミナーが核となっていた前作に対し、今作は、精力的に活動を続けるゴア本人に密着。水害に見舞われた土地を視察後、急いで水浸しの靴下を脱いで講演へ向かうといった、プライベートな部分にまでカメラは入る。
「自分に決定権があったら、靴下を脱ぐなんてシーンはカットするよね。でも、よかったんじゃないかな。そもそも自分では、もっと若くてスマートで、髪も黒いと思ってるんだけど」と気さくに笑うゴア。
そして「いまはドキュメンタリー映画の黄金期時代だと思う」と語り、続編製作にあたり、TV番組やネット配信ではなく再び“映画”という媒体を選んだことへの思いを明かす。
「みんなが同じ空間に座って、90分なり120分なりで完成したストーリーを一緒に体験できる。読書も好きだけれど、私にとっては映画が一番訴えかけるメディア。映画の力を信じているんだ」。
「映画といえば、ハーバード大学時代のルームメートだったトミー・リー・ジョーンズの『逃亡者』(93)や『ノーカントリー』(07)も好きだけれど、特別好きなのはドイツ映画の『善き人のためのソナタ』(06)と『2001年宇宙の旅』(68)だね。でも、『2001年宇宙の旅』は孫に見せたら、あくびをしていたよ。『ゆっくり過ぎるよ、おじいちゃん』ってね(笑)」。
政界から退き、69歳となったゴアは、私生活では4人の子どもと、4人(もうすぐ5人に)の孫を持つおじいちゃんだ。
仕事をすればするほどエネルギーが湧く
しかし本編を観るにつけ、休みなく活動を続けるそのバイタリティには舌を巻く。だがゴア自身は映画を引きあいに、次のように語った。「私はいま行っていることを本当に光栄だと思っている。名誉なことだと。これは自分がやるべきことだという強い意識を持っているので、仕事をすればするほど、エネルギーが戻ってくるんだ。たとえば『炎のランナー』(81)には、“走ると神の喜びを与えられる”といったセリフが出てきたけれど、まさに私も、そうした喜びを毎日感じているんだ」。
そして続けた。「大学時代、気候問題について初めてロジャー・レヴェル教授から学んだときには、まさか生涯を通じた使命になるとは思っていなかった。その後、議員になってからも、科学者たちの警鐘は全く届いていなかった。でも、母なる大自然が声を上げ、誰もが認識するようになったいま、再生可能エネルギーといった解決策も見つかってきた。だから私は希望を持っているし、興奮している。そしてもっとエネルギッシュになれる」。
『不都合な真実』から現在へ。状況は悪くなっている一方だとの見方もあるが、本作のゴアの姿は見る者を奮起させる。最後に、未来へ残したい日本の風景を聞くと、ゴアは笑顔で答えた。
「副大統領時代に天皇皇后両陛下にお会いするために訪れた皇居は、とても美しい場所だった。京都も東京も好きだ。そして何より日本の景色として素晴らしいのは富士山。私が行っているセミナーのスライドショーでも、富士山の写真を使っているよ。富士山の前にソーラーパネルがずらっと並んでいるんだ。まあ、その写真の場合は、私だから好きなのかもしれないけどね(笑)」。
取材・文/望月ふみ