ウィル・スミス主演作『ブライト』監督が語る、Netflix映画の現状
『トレーニング デイ』(01)や『フューリー』(14)など骨太な作風で知られるデヴィッド・エアー監督が、気合を込めて放つNetflix配信映画『ブライト』(12月22日より全世界同時オンラインストリーミング配信中)。主演は『スーサイド・スクワッド』(16)でも組んだウィル・スミス。Netflixの映画としては最大級のバジェットを注ぎ込んだ本作に、監督はどう挑んだのか?
近年、Netflixの勢いには目を見張る。第89回のアカデミー賞では、同社のオリジナル作品の『最後の追跡』、『13th-憲法修正第13条-』、『最期の祈り』、『ホワイト・ヘルメット-シリアの民間防衛隊-』の4作が、作品賞を含む計7部門にノミネートされて話題を呼んだ。今回はプロデューサーとしても手腕を発揮するウィル・スミスを迎えたアクション超大作ということで、映画業界からも熱い視線を浴びている。
デヴィッド・エアー監督は、今回の映画作りの環境や仕上がりに確固とした手応えを感じている様子。「Netflix は映画作家を育ててくれるので、作家としての声を届けることができる。そのため最高の映画体験になった」。まさに同社が掲げる“クリエイティブファースト”という理念の賜物で、あまり外野からの横槍が入らなかったようだ。
『ブライト』の舞台は、人間と様々な種族が共存する“もう一つの世界”のロサンゼルス。種族によって階級が異なり、一番上がエルフ、続いて人間、一番下層の階級にいるのが醜いオークとなっている。人間の警官ウォード(ウィル・スミス)は、怪物オークの警官ジャコビー(ジョエル・エドガートン)とバディを組んでいるが、ある日、地球の運命をも左右する大きな事件に巻き込まれていく。
監督が得意とするロスを舞台にした刑事もののバディムービーと、「ロード・オブ・ザ・リング」のようなファンタジーをミックスさせた世界観の本作は、まさに監督にとって集大成的な映画となった。
「これまでに撮ってきた作品群で、スケールの大きいアクションやCGの使い方を学んできたので、今回それを『ブライト』に応用したんだ。そういう意味で本作は、いろいろなジャンルを融合させた風変りな作品に仕上がったと思う」。
ウィル・スミスは脚本段階から監督と意見を交換し合い、いろんなアイディアを出してくれたそうだ。「本作の世界観をどこまで説明するかについていろいろと話し合った。背景にある歴史や神話を省略しすぎるとわからなくなるが、説明過多にすると説教臭くなってしまう。ウィルとそのさじ加減を詰めていったよ」。
さらにウィルは、ジョエル・エドガートンとのリハーサルを念入りに重ね、監督はウィルが放つアドリブを本番に盛り込んでいった。「ウィルのユーモア感覚をどんどん入れ込みたかった。彼はとても信頼のおける友人でもあるので、とても有意義な映画作りができるんだ」。
ジャコビー役を演じたジョエル・エドガートンの演技も実に味わい深い。ジャコビーは差別にも負けず、オーク初の警官となった努力人だ。「彼はいろんな障害が立ちはだかる中で、自分の夢を実現させていく。間違ったことは絶対にしないというすごく高潔なキャラクターだ。物語が進むにつれてどんどん強くなり、真の自由を見出していくんだ」。
ジャコビーを見ていると、『ズートピア』(16)でウサギ初の警官となったジュディを思い出す。両作ともファンタジーやアニメーションというフィルターを通して人種差別問題に斬り込んでいて、観終わった後、熱いものがこみ上げてくる。
「僕の場合、意識的に何かメッセージを伝えようとしているつもりはないけど、やはりそういう着地点に行くのは、自分自身のバックグラウンドが影響しているからだろう。僕はいろんな国を転々としていて、危険な地域にも住んでいたことがある。人を階級で分断する社会も見てきたし、実際に周りの友人が夢を抱いても、チャンスを得られない状況を目の当たりにしてきたんだ」
「だからこそ、僕自身はそれとは対象的な生き方を心がけてきた。他者を受け入れ、常に助けの手を差し伸べることを意識しながら生きてきた。きっと、そういう真実か何かが作品にもにじみ出ているのではないかと思う。だから、世の中が良い方向へ少しずつでも進んでいけばいい、と常に願っている」。
取材・文/山崎 伸子