「リング」原作者・鈴木光司が明かす、貞子の呪いから解かれる唯一の方法とは?
日本中にJホラーブームを巻き起こした『リング』『らせん』が公開されてから今年で20年。「リング」シリーズの新作『ザ・リング/リバース』(公開中)について、「もっとも原作に忠実で、もっとも怖い」と太鼓判を押すのはシリーズの生みの親である原作者の鈴木光司だ。
そんな彼は、自身が生みだした“恐怖”についてこう分析する。「原作小説には幽霊も出てこなければ残虐なシーンもない。徹底的に論理的な話なのに怖いと感じるのは、読者の想像力があるからだろう。小説は読む人間が頭の中で想像することで命を吹き込まれる」。
原作シリーズの1作目「リング」は、鈴木が「楽園」でデビューする前の89年に執筆され、91年に書籍として刊行。その後徐々に口コミでその噂が広まり、大ベストセラーとなった。それだけの人気を集めた秘訣について彼は「これまでになかったタイプのホラー小説だからでしょう」と振り返る。
98年に中田秀夫監督によって『リング』、飯田譲治監督によって『らせん』が同時に映画化された。「映画は映像的なわかりやすさが必要。だから、貞子が立体となって出てくる怖さというアイデアにはおもしろいこと考えるなぁ、と感心しました」と当時の心持ちを明かした。
今回の作品はハリウッド版の3作目にあたる。2002年に1作目の『ザ・リング』が製作された当時は原作小説が英語に翻訳される前ということもあり、中田監督版「リング」の完全なリメイク作品として作られた。続く『ザ・リング2』(05)はその中田本人がメガホンをとって、1作目の続編として作られている。そして今回の3作目は、原点回帰として原作小説の“再映画化”という位置付けだ。
「(F・ハビエル・)グティエレス監督は原作を相当読み込んでいると思うけれど、貞子(ハリウッド版ではサマラ・モーガンという名前に変更されている)が相当好きなんだろうな」と微笑む鈴木は「その好きさが高じて、ちょっと貞子を出しすぎているかなぁ・笑」と、原作者として率直なコメント。
映画化される際には必ずシナリオをチェックする契約になっていると語る一方で「こちらが出したアドバイスを採用するかしないかは制作会社の自由。こちらの要望すべてを取り入れなくてもいい」と明かす彼の表情からは、作品とそれを受け取る人々への絶対的な信頼が感じ取れる。そして「今回も『もっと貞子の登場を抑えろ』って伝えたと思うんだけど、もし書かなかったらもっと出ていたかも」と笑った。
さらに鈴木はこのシリーズの核心に触れた。映画版では毎回、呪いから解かれたと思って日常を取り戻した主人公たちが、実はその呪いが終わっていないという意味深なラストを迎えることが定番化している。観たら必ず死ぬ呪いのビデオ”からどうやったら解放されることはできるのだろうか。鈴木に訊ねてみると、ズバリと即答。「死ぬことだね」。
「“呪い”というものは、自分の願いが叶わないまま死んだ人間が、残された人間に対して『私の願望を叶えろ、さもなくば悪いことが起きる』という死者からの要求なんだ」と持論を展開する鈴木。「自分のコピーを作って蔓延させること、そして相手が死ぬことこそが貞子の願い。だから呪いを解く唯一の方法は、その願いを叶えてやることだけなんだ」。
世界中を恐怖のどん底に落とした究極のホラークイーン・貞子の生みの親として、彼女に深い愛情を注いでいることを窺わせた鈴木。「ゆくゆくは予期しないところから出てきてほしいな」と笑顔を見せた彼が、新たな“呪い”の物語を生みだしてくれることに期待したい。
取材・文/久保田和馬