“サディストな夫”を演じた戸次重幸、結婚&父になって「180度変わった」

インタビュー

“サディストな夫”を演じた戸次重幸、結婚&父になって「180度変わった」

演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバーとして活躍しつつ、確かな演技力で映画、ドラマにと引っ張りだことなっている俳優・戸次重幸。文豪・谷崎潤一郎が生みだした短編作品を映画化した「谷崎潤一郎原案/TANIZAKI TRIBUTE」の1作『神と人との間』(1月27日公開)では、親友をバカにし、妻を裏切る“最低男”を体現。戸次自身「極悪人」と語る役柄をギラリとした存在感で演じている。プライベートでは2015年に結婚し、その翌年に第一子が誕生。公私ともに順風満帆の彼に、「180度、変わった」という結婚がもたらした変化を聞いた。

谷崎が佐藤春夫に自身の妻を譲ったという「細君譲渡事件」を題材にした小説をもとに、町医者の穂積、その親友で売れない漫画家の添田、熱帯魚屋で働く朝子の奇妙な三角関係を描く本作。戸次は、朝子と夫婦となりながらも、穂積と朝子が不倫するようにけしかけるサディストの男、添田を演じている。

戸次は、「谷崎さんは常人では考えの及ばない感性をしているんですよね。親友に、自分の嫁さんを譲るというんですから。やはり、普通の人にない感性を持っていらっしゃる作家さんが生み出す作品には、絶対的なおもしろさがある」と谷崎の才能に感嘆。

特有のセンスで人間の業を描きだすとあって、登場人物は一風変わったキャラクターばかり。サディスト化していく男・添田については「極悪人」と分析する。「ひどい男ですよ。ここまでなにを考えているかわからない男を演じたのは初めてです。人の気持ちを踏みにじって生きている男で、自分が悪いことをしていることに気づいていないんです。荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』の受け売りで言うならば、世の中の極悪というのは“自分が悪だと気づいていない悪”なんだそうです。まさにそのような男かもしれません」。

劇中、朝子を怒鳴りつけたかと思えば、すがるようにして謝るなど、感情の振り幅も大きい役だ。「アイドリングなしでエンジンを3000回転まで持っていったと思ったら、いきなりブレーキをかけるような役。車なら壊れていますね(笑)」と苦労もあった様子だが、「自分とは真逆のような男。自分にないものを想像して形にしていくというのは、役者の醍醐味」と充実感もたっぷりだ。

「TEAM NACS」最後の独身者であった彼も、2015年に結婚。穏やかではない結婚生活が描かれる本作とは裏腹に、プライベートの結婚生活は「順風満帆!」と声を大にする。結婚後、どのような変化があっただろうか。「“死ねないな”と思いました。結婚するまでは、誰にも迷惑かけずにパッと死にたいなと思っていたんです。でも結婚して、子どもが生まれてからは特に“死ねないな”と思って。子どもが一人前になるまでは、夫婦二人三脚で、絶対に死ぬわけにはいかない」と、一家の大黒柱として「自分ひとりの体ではない」と強く感じているそう。

そして「死ねないと同時に、落ちぶれられない」とも。「いつなにがあってもおかしくない仕事。最近、ニュースやワイドショーを見ていても、あっという間に仕事がなくなるのが芸能界だと感じています。僕はもちろん悪いことはしてませんけれど、恐ろしいですよ!なにをきっかけに仕事がなくなるかわからない世界に身を置いているのだから、この仕事を続けていくためには気を引き締めていかないといけない。ビクビクしながら役者をやっています(笑)」と茶目っ気たっぷりの笑顔を見せつつ、身を置く世界の厳しさを語る。

さらに「自分の仕事を卑下したように言いましたが」と姿勢を正し、「ひとつの作品が終わったときの達成感というのは、なかなか得難い体験です。役者業というのはその達成感があるからこそ、続けられる仕事です」と改めて役者業への熱意を告白。父、夫、役者として、誠実さあふれる姿がなんとも魅力的だ。

取材・文/成田 おり枝

Stylist: Yojiro Kobayashi(yolken)
Hair & Make-up: Raishirou Yokoyama(yolken)