ヒュー・ジャックマン、皮膚がんで80鍼縫った翌日に熱唱して流血!

インタビュー

ヒュー・ジャックマン、皮膚がんで80鍼縫った翌日に熱唱して流血!

『ラ・ラ・ランド』(17)の製作チームが放つミュージカル映画『グレイテッド・ショーマン』(2月16日公開)で主演を務めたヒュー・ジャックマンを直撃。7年越しで映画化された本作は、ヒューの代表作の一本『レ・ミゼラブル』(12)よりも以前から温められていた映画で、ヒューの思い入れもひとしおだ。

彼が演じたP.T.バーナムは、19世紀半ばのアメリカでショービジネスの原点を築いた実在の興行師。本作では、妻への一途な愛を糧に、個性的で型破りなショーを展開していったバーナムの半生が描かれる。楽曲を手掛けたのは、当時はまだ無名だった、『ラ・ラ・ランド』(17)のベンジ・パセックとジャスティン・ポールの名コンビだ。

『LOGAN/ローガン』(17)のキャンペーンで来日したヒューにインタビューした際、「ウルヴァリン役を卒業することで燃え尽き症候群にならないのですか?」と質問し、その時にヒューが「NO!」と元気良く答えてくれたのも記憶に新しい。それがいかに愚問だったかは、今回の取材でつくづく思い知らされた。その時のヒューは、すでに本作という未来に目を向けていたからだ。

そんなヒューのあふれんばかりの情熱を感じ取れるエピソードがある。まだ正式に映画化が決定していなかった時、ヒューたちが行った最後のワークショップでスタジオのお偉方にプレゼンテーションをすることになった。ところがその大切な日の前日に、ヒューは皮膚がんの外科手術を受けていたのだ。

「鼻を切って80鍼も縫ったので、医師からは『絶対に歌うな』ときつく止められていたんだ。歌うと血流が良くなって出血してしまうからね。でも、その日は20世紀フォックスの重鎮をはじめ、世界中のお偉方が集まっていたんだ。誰も歌わないヒュー・ジャックマンなんて見たくないでしょ(苦笑)。仕方ないから僕は『みなさん、すみません。僕は手術直後で歌えません。立ち上がりますが、歌いません』と最初に宣言したんだ」。

自分自身にもそう言い聞かせていたヒューだったが、最後の曲で導入部分だけ歌うはずが、気がつけば最後まで熱唱してしまったそうだ。

「歌い出したらやめられなくなってしまい、傷口が開いて、血が流れてしまった。この時の動画はインターネットでアップされているよ。仕方なく、終わった後で縫い直してもらったんだが、医師からはすごく怒られた。本当は次の日、彼は旅行の予定を入れていたみたいだけど、旅行に行っている間に傷が化膿するかもしれないということで取りやめてくれたんだ」。

だが、その時のプレゼンテーションによって、正式に映画化のGOサインが出たそうで「本当にやったかいがあったよ」とヒューはご満悦だ。メガホンをとったのは、本作が劇場用長編映画デビューとなるマイケル・グレイシー監督だ。

「実はマイケル・グレイシーが“裏のバーナム”なんだ。彼は商業映画を撮るのは初めてだったけど、すごく野心的で決断力もある監督だった。すでにCMやミュージックビデオのディレクターとしては第一線にいたけど、長編映画が撮りたいという野望がものすごく大きかったんだと思う。映画化するのに7年もかかったけど、その間、彼はありとあらゆるプロデューサーや俳優、スタジオの重鎮たちの前で、約45分間のプレゼンを1000回はやったと思う。彼がいなかったらこの映画は実現していなかったね」。

もともとミュージカル映画が大好きだったというヒューだが、近年はそういった企画がなかなか通らないというジレンマを抱えていた。

「ハリウッドの賢者に言わせれば『そんなのはやらない方がいい。もし上手くいかなかったらすごいリスクを背負うことになるから』ということらしい。実際にバーナムは7回も失敗して全財産を失っているからすごいよね。ただ、僕はよく自分自身に問うんだ。バーナムのように自分の信念を信じ、正しい道を行ったと思えるか、と。何かを失うことを恐れるあまり、安全な道ばかりを選んではいないだろうか、と。そういうメッセージを、映画から感じ取ってもらえたらうれしい」。

実際に、ヒューはアメコミ映画なのに“老い”というシビアなテーマを内包した『LOGAN/ローガン』や、本作のプロジェクトについては、多くの人から反対されつつも、果敢にトライしていったと言う。「やっぱり自分を信じることが一番大事だと思うから」。

その一方で、ヒューは良きマイホームパパでもある。「いつだってナンバー1は家族なんだ」と言い切るヒュー。「マイケル・グレイシー監督は当時そういう守るべき存在がいなかったので、この映画と結婚したようなものだった。でも今は彼女ができたらしいよ(笑)。僕も一番に優先するのは家族だ。もちろん野心はこれからも持ち続けていくよ。若い頃はもっと野心に対してナーバスに感じていたけど、今はそれを楽しんでいる感じかな」。

取材・文/山崎 伸子

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