ソフィア・コッポラ監督、『ビガイルド 欲望のめざめ』に見る女の欲望とは

インタビュー

ソフィア・コッポラ監督、『ビガイルド 欲望のめざめ』に見る女の欲望とは

ソフィア・コッポラ監督が、カンヌ国際映画祭で女性監督として史上2人目、56年ぶりに監督賞を受賞した『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(公開中)を引っ提げて来日。フランシス・フォード・コッポラ監督を父にもつサラブレッド監督は、新作を発表するたびに脚光を浴びてきたが、今回は初めてスリラーというジャンルに挑み、新境地を開拓した。

以前にクリント・イーストウッド主演映画『白い肌の異常な夜』(71)として映画化されたトーマス・カリナンの小説を、女性視点からアプローチして描いた本作。南北戦争末期に、女子寄宿学園の生徒に助けられた敵方の軍人が、そこで暮らす7人の女たちの欲望に火をつけていく。

ソフィアが原作に惹かれた理由は「現代を生きる私たちも共感できるような男女関係だと思ったから」だと言う。「もちろん南北戦争時代を描く小説だからとてもドラマティックに誇張された関係性ではあるけれど、普遍的な物語でもあると思う」。

ニコール・キッドマン演じる園長のマーサ、キルスティン・ダンスト演じる教師のエドウィナ、エル・ファニングら若き女優陣が演じる生徒たちが、コリン・ファレル演じる敵兵・マクバニー伍長に心をかき乱されていく。

「彼女たちは世間から隔離されているからこそ、普通の女の子たちよりも欲求が強い。マクバニーはそのことを察知し、それぞれの世代が求めている男性像を的確に提供していく。子どもたちにとっては良きお兄さんみたいな存在となり、エドウィナにとっては恋人のような雰囲気を醸し、マーサ先生は生徒たちの面倒を見なければいけないという責任感があるから、彼女には同世代の大人の魅力を出していくの」。

静かに燃え広がっていく女たちの嫉妬の炎。ソフィア自身、思春期の少女たち特有の儚さと残酷さを描いたデビュー作『ヴァージン・スーサイズ』(00)との類似性も口にしていたが、戦下の女子寄宿学園という隔離された女の園が舞台なので、よりサスペンスフルな様相を見せていく。また、当時の南部の女性ならではの献身的な気質も影響しているのではないかと監督は言う。

「いつだって男性のために美しく優雅であること。南部の女性はそうやって育てられたにも関わらず、戦争で周りには男性がいなかったの。たとえばエル・ファニング演じるアリシアは性にめざめているから『チャンスがあれば、私はあなたのものになってもいいのよ』と振る舞うし、エドウィナは年齢的に結婚相手を求めていく。でも、彼女たちがマクバニーを誘惑しているというよりは、彼のほうが誘惑したんだと私は捉えたの。彼女たちは、ただ彼の誘惑に対して反応していっただけなんだと思うわ」。

ソフィア初のスリラー映画となった本作は「娯楽性の高い映画になった」と実感しているそうだ。娯楽性と作家性のバランスについては常に意識しつつも「やっぱりアーティストだから、自分の直感を信じてやっていきたい」と言う。「私自身はビジネスウーマンじゃないから、製作費や予算など数字的なことはわからないし。強いて言えば、予算内で映画を作ることしか気にしないわ」。

ちなみに、本作はたった26日間という短い撮影期間で撮り上げたそうだ。「最初の予算からどんどん減らされていったから、選択の余地がなかったの。だから準備だけは入念にして臨んだわ。そこはチャレンジでもあったわね」。

過去作でも『ロスト・イン・トランスレーション』(03)でアカデミー賞脚本賞受賞、『SOMEWHERE』(10)ではヴェネチア映画祭金獅子賞受賞と、コッポラ一族の名に恥じない評価を受けてきたソフィア。本作からも頼もしい風格が漂う。

「父がフィルムメーカーだったことが、私の人生に大きく影響しているのは間違いないわ。これまでも父の影響や恩恵をすごく受けてきたし、逆にコッポラ一族の一員だからこその厳しい評価を受けることも仕方がないと思っている。そのうえで、私にできることと言えば、自分らしい作品を作って、その作品に語らせるということね」。

取材・文/山崎 伸子

関連作品