『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』はチェン・カイコーの到達点!息を呑むほど美しい栄枯盛衰のコントラスト

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『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』はチェン・カイコーの到達点!息を呑むほど美しい栄枯盛衰のコントラスト

唐の時代の中国を舞台に、一匹の妖猫によって引き起こされる不可解な事件を日本から修行に訪れた空海と、白楽天こと若き日の大詩人・白居易の2人が解き明かしていく歴史エンタテインメント大作『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(2月24日公開)。

本作のような史実を深掘りしていくタイプの作品は、それなりの前知識を備えたうえで観なければ完全に入り込むことが難しいだけに、必然的に繰り返し観たいという衝動に駆られてしまうものだろう。そして案の定観れば観るほどに、その不思議な魅力に取り込まれていってしまう。

荘厳なヴィジュアルを携えた歴史劇というものは、チェン・カイコー監督にとっては十八番中の十八番。あまりの美しさに長尺であることさえも忘れて心酔してしまう『さらば、わが愛/覇王別姫』(93)しかり、その後の『始皇帝暗殺』(98)や『花の生涯〜梅蘭芳〜』(08)と、カイコーという作家をイメージすると、必然的に紅に染まった絢爛たるヴィジュアルが想起される。

しかし、それらはただ艶やかな色彩と派手なVFXや美術によって作り出されているわけではない。逆にカイコー作品では地味なテイストに分けられるような『人生は琴の弦のように』(91)や『北京ヴァイオリン』(02)といった作品が持つ荒涼としたイメージを上手くまといながらコントラストを生みだし、その美しさを確立させていく。もはやその荒んだ姿さえも同時に美を感じるほどだ。

本作の妖艶さを形づくる場面として、空海と白楽天の2人が阿倍仲麻呂について調べはじめ、彼の日記を読む場面がある。突如時代が数十年遡り、繁栄を極めた玄宗皇帝の時代の長安へと観客を誘い、あたかも“極楽の宴”の宴客として出迎えられているかのような錯覚を与えられる。ところが時代が立ち戻ると、その宴が行われていた場所は藻が生い茂り、薄暗く寒々しい空間へと変わっていく。

また、空海と白楽天の2人が人気のない宮廷に船で訪れる場面。ゆっくりと堀を進んでいく彼らが辿り着く船着き場の寂れ方(しかもその汚れがわかるように俯瞰で映しだす)と静まり返った光景。そして延秋門を眺める2人から転じて、安史の乱の勃発を受けて走り去っていく大勢の人々が対比される。

他にもたった1日で草が生い茂る庭や、殺風景で冷ややかな墓所など、栄華の美にはつねに退廃の美が帯同していく。そういったこれまでのカイコー作品が持ってきた美への見地を総動員させて栄枯盛衰のコントラストを作り出す本作は、彼の映像美学の到達点なのかもしれない。

文/久保田和馬

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