岩田剛典が斎藤工の美しすぎる被写体に!『去年の冬、きみと別れ』撮影秘話
「すべての人がこの罠にハマる。」「教団X」で知られる芥川賞作家・中村文則の同名ミステリー小説を映画化した『去年の冬、きみと別れ』(3月10日公開)は、その不敵なコピーに思わず身構えてしまう。主演を務めたのはEXILE/三代目J Soul Brothersの岩田剛典で、彼と対峙するヒール役を斎藤工が演じた。2人を直撃し、これまで『脳男』(13)や『グラスホッパー』(15)などを手掛けてきた瀧本智行監督とのすてきな“共犯関係”について話を聞いた。
岩田が演じたのは、美しい婚約者・松田百合子(山本美月)との結婚を間近に控え、スクープを追いかける新進気鋭の記者・耶雲恭介役。彼が追っているのは過去の猟奇殺人事件と、その事件の容疑者とされつつも、執行猶予つきで釈放された天才カメラマン・木原坂雄大(斎藤工)。やがて木原坂の危険な罠が、百合子に忍び寄っていく。
岩田は瀧本監督と話し合い、主人公の耶雲役については常にフラットでいることを意識したと言う。「ある種、耶雲は観客目線でもあるし、全体が入り組んだストーリーだから、僕がフラットでいないとクライマックスが生きてこない。目線ひとつをとっても別カットを撮るなどすごく繊細な作業でしたが、僕は瀧本監督に全幅の信頼を寄せていました」。
撮影中の岩田は、耶雲役にとことん入り込んでいたよう。「基本的にはプライベートで飲みに行ったり、友だちと会ったりすることもやめていました。撮休があれば息抜きでどこかに行けばいいんですが、そういう気持ちにもなれなくて。もし、そういう時間を設けてしまったら、今度は戻ってきた時にしんどいだろうとも思っていたので、ずっと潜っている感じでした」。
さらに「ずっと暗く長いトンネルが続いていて、出口が見えなかった」と告白。「瀧本監督が夢にも出て来るくらいでした。でも、誰よりも監督がこの昨品に対しての愛情が深かったからこそ、僕たちも同じ温度が保てたので、いま思えば本当に良かったなと思っています」。
斎藤は、木原坂役を演じるにあたり、最初から狂気を全面に押し出さず、日常性を宿すところから入っていった。「まずは“第1コースの敵”という感じで、そこから徐々に後半の狂気へ派生していく感じにできればと。原作のイメージが強烈にあったので、そこに引っ張られすぎないようにしました。カメラは前から趣味としてやってはいたのですが、“カメラマン風”の芝居をするのが嫌で、これを機会に写真を撮る連載も始めさせていただき、職業的リアリティを出そうとしました」。
実際に斎藤は、現場で岩田の写真をたくさん撮っていった。「1つ注意したいのは、彼が人間として美しすぎる点です。その美しさに惹き込まれ過ぎちゃうところがある。なんていうか、それは自然の美しさに通ずるものでした」。岩田は「そんなことないですよ」とハニカミ笑顔で否定するが、斎藤の賛辞は止まらない。
「すごいなと思ったのは、対峙していても美しいのですが、目はちゃんと耶雲なんです。瞳の奥の炎が色として見えなくても、熱波が来る。美しさを凌駕する目に何度もゾクッとしました。木原坂は耶雲に対して嫉妬心や興味があるのですが、じつは彼が百合子に対して興味をもったのは、耶雲に魅力を感じたからだと思ったんです。彼が大事にしている百合子という分身を奪われた姿を見たいという欲望が湧いたからなのかなと。岩田さんと対峙してみて心底そう思いました」。
2人が対峙するシーンのなかでも、極めつけはクライマックスの火事のシーンだ。岩田は「あの撮影は危なかったですね。すごい火薬量で、作ったセットを全焼させましたから」と興奮気味に話すと、斎藤も「近づけないくらいすごくて。消防車がスタンバイしての撮影でした」と、大掛かりなシーンでのエピソードを明かした。
岩田は「そんな火の中でアクションがあったので、まさにアドレナリンが出ていました。あんな状態になることはなかなかないです」と言いながら「それだけめちゃくちゃチャレンジした作品で、撮影中はまさにすべてを懸けていました。本当に魂を込めた作品なので、ひとりでも多くの方に届けたいという思いでいっぱいです」と、清々しい笑顔を見せた。
斎藤も本作には大いに手応えを感じているよう。「すべてのピースがハマった作品になった。内容的には『え!?』と度肝を抜かれますが、作られるべくして作られた映画だったのかなと。特に主演俳優と監督との関係性がすばらしく、みんながプラスなものを得た昨品に仕上がったと思います」。
取材・文/山崎 伸子