スピルバーグ監督「『E.T.』公開もいまだったらヒットしてない」2018年に送りだすべき映画とは?

インタビュー

スピルバーグ監督「『E.T.』公開もいまだったらヒットしてない」2018年に送りだすべき映画とは?

イマジネーションあふれる世界を作り出し、常に観客を新しい感動に包んできたスティーヴン・スピルバーグ監督。最新作『レディ・プレイヤー1』(公開中)では、VRワールドを舞台とした冒険物語へと誘う。13年ぶりの来日を果たしたスピルバーグ監督にインタビューすると、「『E.T.』の公開がいまだったら、決してヒットはしていないよ」と意外な言葉を口にする。映画の神様と言っても過言ではない、スピルバーグ監督がいまつくりたかった映画とはどんなものなのか?“想像力の源”までを明かしてもらった。

舞台は現在から27年後。多くの人は荒廃した街に暮らし、若者たちはVRワールド“オアシス”にだけ希望を見出していた。誰もがもう1人の自分=アバターになって、別の人生を楽しむことができる“オアシス”で、創始者の遺産と“オアシス”の覇権をめぐる熾烈な争奪戦が幕を開ける…。

登場人物たちがVRワールド“オアシス”に足を踏み入れるや、観客も一気に異世界へと連れて行かれる。没入感を可能にしたのは、どんなトリックがあるのだろうか。「まずストーリーがとってもよかったんだと思う。原作者のアーネスト・クライン、脚本家のザック・ペンのおかげだね。“オアシス”のイメージを観客に伝えるために、みんなで想像力を働かせたんだ」とスタッフ陣に感謝し「実写だと感じられるようなリアルなアバターを作り上げて、観客のみなさん自身がVRワールドに入り込むような体験をしてほしかったんだ」と目を輝かせる。

アバターたちが生き生きと動き回るカラフルなVRワールドと荒廃した現実の世界。2つの世界を行き来する展開は「いままで生きてきたなかで一番、複雑な作業だったよ」と監督にとっても新たな挑戦となったそうで、「今回は製作に3年かかったんだ。これまでで製作期間が一番かかったのは『未知との遭遇』だね。本作は2番目に長い作品になったよ」と苦労を明かす。

“オアシス”の創設者が1980年代を愛している人物とあって、“オアシス”には80年代のポップカルチャーふんだんに盛り込まれている。オープニング早々にヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」が流れ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン、『ジュラシック・パーク』の恐竜も登場する。「この映画にはお宝がたくさん隠されていて、エフェクトを担当してくれたILMがサプライズで入れ込んでくれたものもあるんだよ。ある時、グレムリンが走っていくのを見つけたんだ。僕まで驚いてしまったよ!」というから隅から隅まで見逃せない。

スピルバーグ監督にとっては、80年代はどんな時代だっただろうか。「80年代には、もうすでに映画をつくっていたね。『E.T.』や『レイダース 失われた聖櫃<アーク>』もそうだ。最初の子どもが生まれたのも80年代なんだ。とても思い出深い時代だよ」と穏やかな笑顔を見せる。さらに「80年代はイノセンスの時代だった」と分析。

「レーガン大統領がいて、仕事があって、経済もまあまあよかった。文化がすべてをコントロールしていた時代とも言えるだろうね。映画やテレビ、ファッションもすべてにイノセンスが宿っていた。この映画の舞台である2045年は、ディストピア的な世界になっている。だからこそ『戻りたい時代』として80年代が出てくるんだ」と理想郷としての80年代を語り、「1982年に公開された『E.T.』はそれまでの映画史上で最もヒットした映画になった。でも、もし2018年にあのままの映画をつくったとしたら、絶対にあそこまでのヒットはできないと思う。アメリカはいま、あまりにもシニシズムや皮肉がはびこっているから、『E.T.』のようなイノセンスな映画は受け入れられないんだ。80年代だからこそ、ヒットした映画だと思うよ」と映画と時代性は切っても切れないものだという。

「だからこそ、シニシズムを打ち破るような映画をつくりたいと思って『レディ・プレイヤー1』に挑んだんだ。自分が子どもに戻れるような映画をつくりたかったんだ」とスピルバーグ監督。その言葉通り、本作には壁をぶち壊し、未来を掴み取ろうとする若者たちの“熱い絆”がしっかりと映し出されている。

インタビュー中も大きなオーラで周囲を包み込み、ニコニコと笑顔の絶えないスピルバーグ監督。快活さがビシビシと伝わるが、大好きな映画をつくることが一番の元気の源となっている様子。「僕は空想が大好きなんだよ。いつも空想の世界に旅立ってしまうから、家にいながらも家族には『いま、どこにいたの?』なんて聞かれちゃうこともあるんだ(笑)。スタジオジブリに行って宮崎駿さんにお会いした時に、実はものすごくシンパシーを感じたんだ。たぶん、彼もいつも空想しているんじゃないかな」。

取材・文/成田 おり枝

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