白石和彌が明かす、役所広司&松坂桃李への絶大な信頼。『孤狼の血』続編の可能性は?
第69回日本推理作家協会賞を受賞し、第154回直木賞の候補にもなった柚月裕子の同名小説を映画化した『孤狼の血』(公開中)。熱い男たちの熾烈な演技合戦が見どころとなる本作でひときわ異彩を放つのが、いままでに見せたことのないダーティな演技を披露した役所広司と、持ち前の演技力の高さを遺憾なく発揮した松坂桃李の2人だ。本作でメガホンをとった白石和彌監督に、2人への熱い想いを伺った。
まず白石は、役所について「彼は日本で最高の俳優です。役所広司という男に駄作は似合わないから、プレッシャーは正直ありました。でもこの作品を作る上で、中途半端な俳優を選ぶことなんてできなかった」と強く語る。
役所が演じる大上章吾は、まるでヤクザのような風貌をした所轄署の“マル暴”。常軌を逸した破天荒な捜査で周囲を翻弄するだけでなく、暴力団からも一目置かれる存在だ。「撮影に入って、ファーストカットを撮り終えた時に役所さんが『僕ヤクザに見えるかな?』って訊いてきたんですよ。僕はすぐさま『最高です!』と返しました。ヤクザじゃなくて警察なんですけどね(笑)」。
日本映画界を牽引する俳優として、実写映画はもちろんのことアニメ映画の声優も務める役所。そんな彼のパブリックイメージを一新する役柄について「僕の中では『シャブ極道』で役所さんが演じた真壁五味が、そのまま年を取ったようなイメージだったんです」と明かした白石。そして「原作よりは年齢が少し上ですが、とても若々しく演じてくれました。カッコよかったですね」と満足そうに微笑んだ。
一方、そんな大上に翻弄される新人刑事・日岡を演じた松坂桃李についても白石は熱弁を振るう。白石監督と松坂は、昨年公開された『彼女がその名を知らない鳥たち』に続き2度目のタッグとなる。本作は主に日岡の視点から描かれており、序盤で県警本部から所轄署へと配属された彼は、終盤で大きな変化を遂げるのだ。
「最初に桃李君と日岡という役柄について話した時に、2人で『いい役だねえ』って顔を見合わせましたね(笑)」と楽しげに語る白石は「役所さんとここまでがっちり対峙できる役はなかなかないと思うので、監督の僕から見ても羨ましい限りです」。
俳優としての松坂の魅力については「本当に頭が良い。脚本の中の自分の立ち位置をしっかりと把握して、エゴを出さずに演じてくれる。ただのイケメン俳優ではなく、昔の映画俳優のような無頼な雰囲気も持っていて、その感じが好きですね」と評する。
すっかり自作に欠かすことのできない俳優となった松坂に対して白石は「彼が50歳や60歳になった時、いまの役所さんのような立ち位置の俳優になると思う」と大きな期待を寄せた。
また先日、本作の原作小説の続編となる「凶犬の眼」が出版され、さらに完結編となる「暴虎の牙」の連載も開始された。日岡を主人公に新たな抗争の火種となる事件を描く前者と、大上の過去に触れる後者。映画のシリーズ化の可能性について白石に訊いてみると、にっこりと微笑み「桃李君もやりたいって言っていますからね」と楽しみな一言をくれた。
取材・文/久保田 和馬