カンヌの観客の度肝を抜く!「してやったり」の北野武監督
5月17日、夜10時30分、北野武監督がカンヌのコンペティション公式に登場した。プレス試写では、そのすさまじく、ユニークなバイオレンスシーンの数々に笑い声やうなり声が聞こえたとか。リュミエール劇場での公式上映に先駆けて行われた記者会見では北野ファン、もしくは日本映画やアジアのアクション映画、フィルム・ノワールのファンとおぼしき各国の記者たちから熱心な質問が浴びせかけられた。
影響を受けたヤクザ映画は?という質問に「深作監督の『仁義なき戦い』シリーズは好きだが、映画の手法としては逆のことをしてやろうと思ってきた」と答え、「オリジナリティのある痛め付け方や殺し方を考えて、それにあわせて情景を作っていく」「撮りたいシーンを四つ考えて、4コママンガのように起承転結に当てはめ台本を書いていく」と北野映画の作り方を披露した。
今回は一度北野組の役者を外し、さらにいかにも“やくざ役者”を使わず、この映画に出たいという役者を集め、パズルのように役に配していったという。
その結果。リュミエール劇場を埋めた観客は度肝を抜かれた。ショッキングなバイオレンスシーンに顔を覆い、うめき、次に出てきそうなときはあらかじめ顔を背ける観客が続出。
「してやったりと思ったね」と北野監督はにやり。「カンヌがバイオレンス映画を選んでくれたというのが誇らしい。周りの連中はコンペに選ばれるってことがどれだけ大変なことかわかってないのが多くてね。すぐ賞がどうとかって言うけど、まずコンペに入ったことだけで栄誉なんだよ。笑いとバイオレンス、テレビと映画、北野武とビートたけし、振り子みたいに行ったり来たりしながらやってきたけど、両方手を抜かずにやってきた結果だと思う」。
上映が終わり、スポットが監督たちの席を照らす。続く満場の観客が立ち上がり拍手が鳴り止まない5分間。何度も観客席に向かって手を振り、会釈する北野監督。目のあたりを拭う仕草は涙か、汗か。口笛、拍手。退場する監督に森プロデューサーが小さく声をかけるのが聞こえた。
「大成功です」
一夜明けて。日報では「カイエ・ド・シネマ」が高評価をしているものの、やはりバイオレンスが苦手なのか辛い評価が並び、ポイントは高くない。が、審査員の評価は最終日にならないとわからないのがカンヌ。昨年のフィリピン映画の例(日報では最低評価に近かったが監督賞を授賞)もある。ファンと日本メディア陣の期待はまだ続く。【シネマアナリスト/まつかわゆま】