ミシェル・ウィリアムズが賃金格差や「#MeToo」運動を赤裸々に告白

インタビュー

ミシェル・ウィリアムズが賃金格差や「#MeToo」運動を赤裸々に告白

『ゲティ家の身代金』のミシェル・ウィリアムズにインタビュー
『ゲティ家の身代金』のミシェル・ウィリアムズにインタビュー写真:ロイター/アフロ

1973年に石油王ジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐された事件を、巨匠リドリー・スコット監督が映画化した『ゲティ家の身代金』(5月25日公開)。犯罪史に残るこの事件で、人質にされた孫の母親役を演じたのが、『マリリン 7日間の恋』(11)のミシェル・ウィリアムズだ。ミシェルが来日し、ケヴィン・スペイシーのセクハラ問題による再撮影騒動から、賃金格差問題、「#MeToo」運動についての思いを赤裸々に語った。

誘拐された大富豪ゲティの孫ポールに懸けられた身代金は、当時の史上最高額とされる1700万ドル(当時のレートで50億円相当)だった。冷徹な守銭奴であるゲティがこの支払いを拒否したため、離婚してシングルマザーであるポールの母ゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)が、元CIAの人質交渉人(マーク・ウォールバーグ)と共に、誘拐犯と掛け合っていく。

クリストファー・プラマーが最高齢の88歳で第90回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた
クリストファー・プラマーが最高齢の88歳で第90回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた[c]2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ゲティ役を演じたケヴィン・スペイシーがセクハラ疑惑により降板し、急遽『人生はビギナーズ』(11)のオスカー俳優クリストファー・プラマーを代役に迎えての撮り直しが行われた本作。プラマーは88歳で第90回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、演技部門のノミネーションでは最高齢記録を更新し、作品自体も高い評価を得た。しかし、再撮における賃金格差問題が明るみに出たことで論議を醸すことに。ミシェルは「とてつもない悲惨な状況だった」と激白。

「再撮のギャラが、かたや私が日当80ドル、かたや(マーク・ウォールバーグが)日当150万ドルという状況を知り、私は本当に役者としての価値がないんだと落ち込んだの。でも、そのことを白日の下にさらされたことで、大きなうねりが生まれた。私自身、この一件に関われたことは、自分のキャリアにおいてもすごく大事なことだったわ」。

【写真を見る】ミシェル・ウィリアムズが極限状態に追い込まれる母親ゲイル役を熱演
【写真を見る】ミシェル・ウィリアムズが極限状態に追い込まれる母親ゲイル役を熱演[c]2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

さらにミシェルは「本作は70年代の話だけど、紛れもなく現代の女性に通じるメッセージが込められていると思う。いまのアメリカではトランプ大統領が君臨しているし、セクハラにおける『#MeToo』運動や、賃金格差問題が叫ばれる情勢を見ていると、まだまだ男女平等という世の中には辿り着いていない」と嘆く。

また、ミシェルは、自分も子どもをもつ母親であるからこそ、ゲイルの悲痛な思いを共有できたそうだ。「子どもを守ろうとする強い母性は、自発的に溢れていったわ。母親は、子どもがなにか問題を抱えていると、たとえそれがどんなに些細なものであっても、片付くまで落ち着かないものよ。ましてやゲイルは、息子が誘拐されるという極限状態にいたわけだから」。

リドリー・スコット監督は御年80歳だが、近年そのバイタリティーや感性は枯渇するどころか、より精力的にメガホンをとっている印象を受ける。昨年は『エイリアン』(79)の前日談である『エイリアン:コヴェナント』(17)が公開され、話題を呼んだ。

「リドリー・スコット監督は、とてもエネルギッシュかつポジティブで、毎日意気揚々として現場にやってくるの。頭のなかには確固たるビジョンがあり、80歳のベテランなのに、まるで初監督のように、嬉々として現場に取り組んでいる。彼の最大の褒め言葉は、『俺を驚かせてくれた!』だから、毎回監督を驚嘆させようという使命感に燃えながら演じていたの」。

賃金格差についても赤裸々に語ったミシェル・ウィリアムズ
賃金格差についても赤裸々に語ったミシェル・ウィリアムズ写真:ロイター/アフロ

『ブロークバック・マウンテン』(05) や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)でアカデミー賞助演女優賞に、『ブルーバレンタイン』(10)や『マリリン 7日間の恋』(11)では主演女優賞にノミネートされたミシェル。どんな役柄にもひるむことなく果敢にトライしてきた彼女に、その勇気の源について聞いてみると、ウォルト・ホイットマンの詩を挙げた。

「12歳の時に愛読し始め、彼の詩からおおいに影響を受けたわ。ホイットマンは自分の声に耳を傾けたうえで、自分の道を行くことを提示してくれた。周りからいろいろと言われても、自分の核になるものさえしっかり持っていれば前へ進めると、私は常々思っているわ」。

加えてミシェルは「仕事で失敗したり、出演作が不評だったりしても、せいぜい自分が恥をさらすだけのことで、大したリスクではないでしょ。例えば実生活で、時速300マイルの道を走るというリスクは背負えなくても、役としてはできるわけだから」と笑顔を見せる。

ミシェルがこれまでのキャリアで一番刺激を受けたのは、インディーズ映画の女性監督ケリー・ライヒャルトだそう。彼女とは『ウェンディ&ルーシー』(08)、『ミークズ・カットオフ』(11)、『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』(16)と3本の映画でタッグを組んでいる。

「ライヒャルト監督の世界観はものすごくユニークで、あの世界の一員でいられたことはすごく幸福な体験だった。監督と組む映画は、必ずしも興行収入を多く稼ぎ出すわけではないけど、役者として仕事をするのならこんなふうに時間を使いたいと思えた現場だった。自分が後世に残していく作品群としても誇りを持っているわ」。

『ゲティ家の身代金』は5月25日(金)より公開
『ゲティ家の身代金』は5月25日(金)より公開[c]2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

最後に、女優として絶対に譲れないというポリシーについて聞くと、ミシェルは目線をずらし、ふうと大きな呼吸をしたあとで「年を重ねるごとに変わってきたかしら」と澄んだ瞳を真っ直ぐに向き直し、こう語った。

「1つ言えるとすれば、ルールはないってことね。5年前のルールはいまに適用できないから。20~30代前半のころは、好きな芸術で食べていければそれだけでいいと思っていたの。いまでもライヒャルト監督のように純粋な芸術作品を作ることは、すばらしいことだと思っているけど、年を経ていくにつれ、対価を考えるようになったわ。それは、自分の仕事にどういう価値を付加していくかということ。すなわちお金よ」。

そこには、愛娘との生活を一番のプライオリティーに挙げる母としての顔があった。「一家の大黒柱となった時から、そのことは意識せざるを得なかった。だから、今後は5年前には考えなかったような仕事をすることがあるかもしれない。ただ、私はいつだって自分自身に正直でいたいとは思っている。ころころ変わっていく自分の気持ちに耳を傾けながら、今後も柔軟にやっていきたいわ」。

取材・文/山崎 伸子

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