北野武監督インタビュー!『アウトレイジ』は最上級のカツ丼
監督・北野武が、ヤクザ社会を舞台に男たちの生き残りを懸けた抗争劇を描いた『アウトレイジ』(6月12日公開)。「食べ物と同じで、たまにはカツ丼食いたいなーと思って久しぶりに暴力映画を撮ろうと思った」という本作だが、同じ暴力を扱った『ソナチネ』(93)などと比較されるのを嫌った北野監督。そんな『アウトレイジ』は、新たなソースやスパイスが大いに盛り込まれ、極上のカツ丼に仕上がった。
まずは、「たまには新しい人でやってみることになった」と監督が話すキャスティングには、椎名桔平や、三浦友和、北村総一朗など、北野作品初出演となる俳優たちが顔をそろえた。全員悪人という役柄を演じるには好感度の高い役者ばかりだが、それが絶妙の組み合わせを生んだ。「いつもヤクザをやってるような人にお願いすると、みんな同じヤクザのにおいになっちゃって映画全体がうまくいかないんだよ。上に行けば行くほど、普通なんだけど腹黒いんだ(笑)」。
そんな中、監督が「うまいこといったと思う」と話すのが、インテリ風のヤクザ・石原を演じた加瀬亮だ。「加瀬君はどう見てもヤクザじゃない。そこで髪をオールバックにして、まゆげをいじって、サングラスも四角くて細いのをかけたり、いろんなことをやった。それで“あえてしゃべんない。だけど、ひとつキレたら殴り出す”っていう設定に台本を書き直した」。石原を感情を表さない人物にしたことで、草食系男子の加瀬が見事にヤクザに化けた。本当に恐いのは、暴力を振るわない無口な男かもしれない。
また本作は、これまでの北野作品に比べ、セリフの多さも特徴だ。まるでパンチや蹴りの連打のように繰り出される言葉の多さには、笑ってしまう場面もある。「完全な漫才だよね。“なにやってんだバカヤロウ!”“早くしろ、コノヤロウ!”って。みんな喜んでやってたよ」。
そして一番の魅力は、北野作品を一度も観たことがない人も楽しめるストーリー。『Dolls[ドールズ]』(02)などのアート的な作品を撮ってきた監督が、あえて『アウトレイジ』を万人でも楽しめる物語にした理由とは?
「高級レストランのオヤジが、カツ丼を作ったようなもの。そのへんのカツ丼とは違う、俺が作ると美味いんだぞ!って。ここ最近の作品では、“たけしはよくわかんねーのばっか撮ってる”って言うから、じゃあ俺がカツ丼撮ってやろうかって。でもこのカツ丼は味濃いよ。水何杯も飲まなきゃダメかもしれない(笑)」。
出品された第63回カンヌ国際映画祭で話題となった“笑ってしまうほど痛い”バイオレンス描写はもちろんだが、極悪人を演じた俳優たちの名演や、セリフの多さという独自のスパイスによって完成した映画は、究極のユーモアにあふれたエンターテインメント。一度口にすると、頭の中までシビれる『アウトレイジ』の味を劇場で堪能しよう!【取材・文/鈴木菜保美】