池松壮亮が『君が君で君だ』で尾崎豊に共感「生き様が染み込んでいる」
昨年『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)で主演男優賞を数多く受賞し、確かな演技力を改めて世に知らしめた池松壮亮。そんな池松が、主演映画『君が君で君だ』(公開中)で、伝説のロックシンガー・尾崎豊になり切る男を演じた。池松に単独インタビューし「以前からシンパシーを感じていた」という尾崎豊への思いを聞いた。
池松、満島真之介、大倉孝二が演じる男3人は、大好きな女性ソン(キム・コッピ)のために自分の名前を捨て去り、彼女が大好きな尾崎豊、ブラッド・ピット、坂本龍馬になり切ることを決意。3人はソンが住むマンションが見える場所にアパートを借り、10年にわたり彼女を密かに見守っていく。
“見守る”というと聞こえはいいが、ソンの部屋を盗聴したり、窓越しに観察したりと、彼らがやっていることはストーカー行為にほかならない。本作の松居大悟監督は、長編監督デビュー作『アフロ田中』(11)以降、青春時代特有の鬱屈した焦燥感や純粋すぎるがゆえに暴走してしまう純愛をリアルに活写し続けてきた。その極みともいえる本作の脚本を、池松はどう読み取ったのか?
「松居さんとは20歳くらいの時に出会って、7、8年間いろんなところで一緒に仕事をしてきた親しい存在だったので、本作の内容に特別驚きはしなかったです。ただ、松居さんの作品のなかでも本作は特別な1作というか、一番監督自身の内側に向かった、松居大悟にしか作れないオリジナル作品になるんじゃないかとは思いました」。
池松はもともと尾崎豊の曲からかなり影響を受けていたようだ。「尾崎豊さんは1992年に亡くなっていて、僕は90年生まれだから2年しか被ってないんですが、父が尾崎さんの曲を好きだったんです。だから、僕が物心ついてから最初に覚えさせられた曲が『僕が僕であるために』でした。僕はむしろ最近の曲を聴いて育ってこなかったので、平成生まれなのにずっと時代に取り残されてきた感じでした(笑)」。
『僕が僕であるために』は図らずしも劇中で池松たちが熱唱する楽曲だ。「大人になってからも曲を聴いたり、カラオケで歌ったりもして、本当に身近な存在でした。尾崎さんの曲はほとんど知っていますし、その生き様も僕には染み込んでいる気がします」。
尾崎豊になり切る役が決まった時、池松が最初に報告したのも父親だったそうだ。「『ああ、そうか』と言われましたが、いつもより驚きとうれしさがあった気がしました。また、松居さんも尾崎豊の曲にかなり影響を受けてきたらしいです。学生時代に引きこもり、ずっと聴いていたという話もされていたので、そこはお互いに通じる部分があり、本作につながったのかもしれないです」。
尾崎豊への思い入れが強いだけに、プレッシャーも大きかったと言う。「今回、実際には尾崎豊役ではないにしろ、尾崎豊という人の名前と楽曲を借りて演じるわけですから。僕は尾崎さんに会ったこともないし、理解することもできないけど、もし尾崎さんならどういう選択をしたかとか、自分の命を削ってまでも人を愛することを突き詰めたり、叫び続けたりすることがどういうことかなど、いろいろ考えました」。
ブラピ役の満島真之介や、坂本龍馬役の大倉孝二とは初共演ながらも、絶妙な掛け合いを見せている。「それぞれ哲学を持っている方たちがコスプレを演じるので余計におもしろくて、見飽きなかったです。2週間という短い撮影期間でしたが、普段の間柄とも役同志の間柄とも違う関係性を持ち、特別な時間を過ごさせていただきました」。
3人の度が過ぎた純愛は中盤からさらにヒートアップしていくが、その純度の高さに、いつしか観ている側もほだされていく。「この気持ち悪い集合体のパーソナルな部分を2時間(正確には104分)で見せていき、果たして共感を得られるのか?と、正直、心配でした。オセロをひっくり返すように逆転できればいいなと思い、そこを計算しながら演じていきました」。
松居監督とともに手掛けた本作に、池松はある手応えを感じている。「ほかの映画とはなにかが違うし、ジャンル分けもできない映画です。でも、日本でオリジナル作品の企画ってなかなか通らないからこそ、今回松居さんと本作でご一緒できたことがすごく良かったと思っています。純粋で乱暴で、つたない言葉でプロポーズをするような作品になりました」。
取材・文/山崎 伸子