ビリー・ジーン、ボルグ、マッケンローも!テニス雑誌編集長が、レジェンドたちのテニス映画を分析
英国でウィンブルドン選手権開催の真っ只中、日本には『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(7月6日公開)、『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』(8月下旬公開)と、テニス界の歴史的事件やレジェンドプレーヤーの激闘を描いた映画が相次いで登場する。スポーツものの映画は、内容はもちろん、プレーシーンのリアルさなど気になるところ。そのクオリティについて、テニス専門誌「スマッシュ」の編集長・保坂明美氏に2作を鑑賞してもらい、映画で描かれる時代背景と共に分析してもらった。
木製ラケットの構えも、当時流行りの戦術も驚くほど完コピされている
まず『バトル・オブ~』で描かれる1973年は、軽くて丈夫なグラファイトなどをラケットの素材に用いる現在とは異なり、木製のラケットが主流だった時代。素材の違いは打ち方にも影響し、「当時のラケットは面が小さく重量もあり、現在のようにラケットを上にこすり上げてスピンをかけるのは困難でしたので、フラット(無回転)でボールと面を合わせて打っていました。その辺の描写が忠実でした」と保坂氏は細かな点を指摘する。
また、速いストロークを打ち合う現在のプレースタイルとも異なり、「女子選手でも積極的にネットへ詰めて、ボレーやスマッシュで決めるスタイルが主流でした」という。確かに、主人公ビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)をはじめ登場選手たちは、フラットやスライス(逆回転)のショットを多用し、隙を見つけてはネットダッシュする姿が印象的で、試合の組み立て研究に余念がない作品であることもうかがい知れる。
主演のエマ・ストーンについては「肩をいからせて歩く姿はビリー・ジーンそのもの。全てのリーダー的存在であった彼女を一挙手一投足、それを姿勢でも表現していたのが素晴らしかったです」と、選手の細かな特徴をよく捉えていたという。
スベリル・グドナソンに、ボルグ本人が憑依して見える
一方『ボルグ/マッケンロー~』は“テニス界のレジェンド”と称されるビヨン・ボルグとジョン・マッケンローのライバル関係を描いた作品。名試合として語り継がれる1980年のウインブルドン決勝戦で、こちらもウッドラケットの時代だが、特に同作の2人は個性的なフォームの選手として知られている。
片手バックハンドが主流だったこの時代に、ボルグは両手バックハンドとトップスピン(順回転)でプレーに臨んでいた。「ボルグの両手バックハンドは、インパクト後に左手を離し、右手だけでフォロースルーを迎えるのですが、左手の離し方が絶妙でした」と保坂氏は解説。両手バックハンドが主流となった現在でもボルグの打ち方は独特に映り、ボルグ役のスベリル・グドナソンはボルグ本人が憑依したかと見まごうほどウッドラケットを自在に操ってみせる。
対するマッケンローも天才的なテニスセンスを持つ選手で、ボルグ以上に打ち方が基本から逸脱している。保坂氏は劇中のボレーシーンを絶賛。「天性のタッチセンスを持つマッケンローの独特なボレーがよく再現されていました。例えばビリー・ジーンは“しっかり構えて面を作ってボールを打つ”のに対し、マッケンローは“タッチでボールをコントロール”してしまう。体が浮き上がるのと同時にインパクトするあたりなど、細かな部分も意識されていました」と説明にも熱が入る。また、左利きのマッケンローに対し、演じたシャイア・ラブーフは右利きだったようで、利き手が逆だったことが奇しくもマッケンローの独特なフォームの再現に繋がったとも考えられる。