齊藤工がNYに降臨!監督としての手腕と人間力でニューヨーカーを虜に
広島でのボランティアから1週間も経たないうちに、齊藤工がニューヨークに降臨。役者力のみならず、人間力、英語力、監督力を見せつけ、ニューヨーカーたちを魅了した。
7月19日から29日まで開催されている「第12回 JAPAN CUTS ~ジャパン・カッツ!」では、長編作28本と短編9本を一挙に上映。齊藤は、シンンガポール人のエリック・クー監督作『ラーメン・テー(原題)』(18)、長編初監督作『blank13』(17)、岩田剛典共演作『去年の冬、きみと別れ』(18)の3本に出演しており、第20回上海国際映画祭にて、アジア新人賞部門の最優秀監督賞を受賞した『blank13』で舞台挨拶と質疑応答を行った。
同作は、借金を残したまま13年前に失踪した父が、胃がんで余命3か月という状況で見つかったことから始まる家族の物語。放送作家・はしもとこうじの実話を基にしている。
上映前に舞台に登壇した斎藤は、満席の観客席を嬉しそうに見渡しながら「今日は皆さん、この場所に来てくれて本当にありがとうございます」と流ちょうな英語できっちり挨拶。
その後の上映では、本作を司会者が故・伊丹十三の『お葬式』(84)、故・小津安二郎の『東京物語』(53)を引き合いに出し“お葬式コメディ”と紹介して会場を笑いが包んだ。またシリアス度のバランスも絶妙で、その完成度の高さに上映終了後には大きな拍手が沸き起こった。
上映後に再び登壇した斎藤は、英語の質問もかなり理解しているようだったが、日本語で一つ一つ丁寧に回答。この作品を作ったきっかけについては、「友だちの父親のお葬式の話を聞いて、他人事ではないと思った」と説明。また、最初の構想やキャストを後半部分にまとめ、その後、高橋一生、松岡茉優、リリー・フランキーらが名を連ねる前半部分が加わり、この作品が出来上がったのだと製作秘話を明かした。
俳優から監督になることの難しさを理解しながらも、チャレンジしてみたかったという齊藤は、「自分の役者経験から感じたことは、とにかく最初のテイクが最高だってことなんです。テイクが重なるにつれていろいろ考えてしまうから。それで、『テスト撮りはしません』『セリフを覚えてこなくていいです』と、役者の皆さんにまるで宣戦布告のようなことをしたんです」と苦笑い。
実際に監督の立場になって苦労したことについては、「後半シーンは1日半で、全部で7日間の撮影だったので、とにかく雨が降ったら終わり。こんなに天気のことを気にしたことはなかった」「どういうタイミングで、キャストやスタッフの方たちにお弁当を出すかってこと。それと、『サインをもらえるなら』という条件で撮影にお店などを使用させてもらう場合があるのですが、いままでは雑にサインを書いていたのが、製作サイドになったことですごく丁寧にサインを書くようになりました」と、マニアックな答えで会場の笑いを誘った。
本作の独特な音作りについては「この映画は、海外の人にも見てもらいたいと思っていたので、僕の友人でもある金子ノブアキに木魚でトランスを作ってくれるようにお願いしたところ、煩悩の数である108のビートで音を作ってくれた。僕にとって映画の中の音楽というものは、とても大きな要素を占めているので、後半部分もお願いしようと思ったら、『後半は音なしでいけ』って言われたんです。役者さんたちもそうですが、本当にすばらしい音楽監督に巡り合ったと思います」とあくまで謙虚。
また、オフを利用して西日本豪雨で甚大な被害を受けた広島にプライベートでボランティアに出かけた齊藤が、現在尽力している「シネマバード」の活動については、「僕自身、学校より映画館でいろんなことを学ばせてもらいました。その映画館が、震災などもあって日本からどんどん姿を消しています。子どもたちにも、映画館体験をしてほしいという思いで、お寺でもどこでもいいから上映できればと考えて活動しています」と、強い映画愛を語ってくれた。
かねてから映画通を超える映画オタクとも言われていた齊藤だが、本作が笑いの中にもしっかり人間ドラマを感じられる骨太な作品に仕上がったのは、齊藤の監督としての手腕以上に人間力があるのかも。短期間の滞在で、寝不足や時差ぼけと戦いながらも、「こんな僕でよければ」と、質疑応答の後には観客へのサービスも忘れない神対応だった。
映画通のニューヨーカーからも、「初監督作とは驚いた」「最近CG満載の日本映画も多いけど、しっかりと人間ドラマが描かれていたと思う」「おもしろかったけど、みんなが大笑いしてるのを見て、日本の文化が分かったらもっとおもしろかったんだろうなって、ちょっと悔しかった」「日本の映画通の友達にも勧められる」といったお墨付きがついた同作。
今年の、「CUT ABOVE賞 for Outstanding Performance in Film」(日本映画界に貢献をしている監督や俳優の功績を称える賞)は女優歴57年の大女優の樹木希林に贈られたが、齊藤工が俳優、監督としてこの賞を受賞する日もそう遠くはなさそう。次回監督作は“こてこてのホラー”だそうだが、ニューヨークを再び訪れてくれる日が待ち遠しい。
取材・文/NY在住・JUNKO