『インクレディブル・ファミリー』でも実証済み!ピクサー作品がクオリティーを保てる理由とは?
現在大ヒット中の『インクレディブル・ファミリー』でアニメーターを務めた原島朋幸を直撃。『Mr.インクレディブル』(04)の待望の最新作となった本作は、本国で『トイ・ストーリー3』(10)や『アナと雪の女王』(13)、『ファインディング・ドリー』(16)の興収を抜き去り、全米アニメーション作品史上歴代ナンバー1の数字をマークした。なぜ、ピクサー・アニメーション・スタジオは、質の高い作品を生みだせるのか?原島に本作の舞台裏を聞いてみると、その答えが見えてきた。
原島は、ドリームワークスで8年半ほどキャリアを積んだあと、ピクサーに移籍し、『アーロと少年』(15)、『ファインディング・ドリー』、『カーズ/クロスロード』(17)、『リメンバー・ミー』(17)と、本作を含めた5本の作品に携わってきた。
Mr.インクレディブルことボブたちスーパーヒーロー一家の活躍を描く本作。原島は劇中でMr.インクレディブルの友人・フロゾンが氷の橋を作ってそこを滑るシーンなどを手掛けている。
「まず脚本からストーリーボードが作られ、そのあと3D空間に落とし込んだレイアウトを決めていきます。僕の仕事は監督から指示を受け、キャラクターが具体的にどういう動きをするのかを画にしていく作業です。フロゾンが滑るシーンでは、そのスピードや、スピードスケーターのような仕草など、自分が思いついたアイデアを監督に提案しました。さらに監督から『曲がる時に、なにか手の動きがほしい』と言われたので、右手をシューッと挙げて曲がるようにしたんです」。
原島は、キャラクターを動かすうえで、自分自身がポーズを取ったものをビデオに撮り、それを見ながら画に起こしていくそうだ。
「フロゾンが氷を滑って、そこから地面に降りるシーンを描くことになったので、子どもと一緒に滑り台をシューッと滑って降りた映像を撮ってみました。録画した映像を観ると、頭では想像できなかった仕草をしていることがわかります。こういうリズムで降りるんだという発見があり、それを誇張してキャラクターに落とし込んでいきました」。
アニメーターたちは、スピードスケートにまつわる資料など、いろんな情報を全員で共有し、意見交換も積極的に行っていくそうだ。海外のスタジオにいた日本人クリエイターに取材をすると「日本人のスキルは、個人レベルで見ると海外のスタッフと比べても遜色ないけれど、集団になると、海外チームの団結力には叶わない」といったニュアンスの言葉をよく耳にする。チームで切磋琢磨し合うことで、より良いものを生みだしていくという構図だ。
「例えば、僕が女性のキャラクターを描く時、女性のアニメーターに演技をしてもらうことがあります。わからないことは誰にでも聞けるし、聞けば相手も気軽に答えてくれます。みんなで良いものを作ろうという感覚が自然と根付いているからだと思います」。
本作や『トイ・ストーリー3』、『ファインディング・ドリー』などは、いずれも10年以上のスパンを置いての続編となったが、作品のクオリティはもとより、興行的にも大成功を収めている。原島は、その勝因について「監督が長年温めて練り上げたものを、満を持して作るから」と捉えている。
「それだけ時間がかかったことには意味があると思います。今回のブラッド・バード監督も、作りたいものがまとまったからではないかと。大ヒットした作品だから、2作目、3作目をどんどん作らざるを得ない状況ではなく、きちんと作る準備ができたから作ったということではないかなと思います」。
2匹目のドジョウをねらってすぐに作ったわけではなく、作られるべきタイミングで作られたということだ。
「実際、ブラッド・バード監督は、14年の間にアニメーション作品だけではなく、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)、『トゥモローランド』(15)など、実写映画も撮られているし、そういう経験も本作に生かされていると思います。また、ストーリーも練りに練られているから、そこが多くの観客に受け入れられたんじゃないでしょうか。とにかくクリエイティブがすべてかなと。『良いものを作れば受け入れてもらえる』という下地がピクサーにはあって、そこが『ピクサーがピクサーたるゆえんかな』と思います」。
取材・文/山崎 伸子