【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第1回 青春の終わりは確実にある
「DVD&動画配信でーた」9月号(8月20日発売)より、注目の現役女子大生映画監督・松本花奈による新連載「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」がスタート!第1回のテーマは「青春の終わりは確実にある」。青春映画、青春小説、青春感のある音楽――。世の中には「青春」という言葉が氾濫しているけれど、そもそも「青春」とは一体なんなのか?を綴ってもらいました。
「コスプレです、彼氏の趣味で」と嘘をついた、高校時代の深夜3時
私はGoogleカレンダーでスケジュールをつけているのだが、先日ふと電車の中で一年前の今頃は何をしていたんだろうと思い遡ってみた。すると、もうすぐ一人暮らしを始めて1年が経とうとしていることに気が付いた。元々実家から大学までドアtoドアで2時間15分かかっていて、流石にしんどくなり(通学時間の長さが精神に与えるストレスは意外と負荷が多かった)大学から近い場所へと引越しをしたのだが、始めは情けないことに自分でも驚くほど一人暮らしが寂しかった。マンションが防音のため隣の家の人の生活音なども一切なく、また当時はTVも洗濯機もなかったため音のない生活に慣れなかったのだ。流石にそれから1年弱経った今は寂しさはほぼ感じなくなったが、たまにふとした瞬間に実家で飼っていた猫に会いたくなる時がある。黒猫で8kgのおデブちゃんだ。猫にとって引越しは最大のストレス要因なのだと、以前動物病院で聞いたことがある。というのも、縄張り意識の強い猫にとっては何かが「変化」することはとても負荷がかかるのだ。
だが、私たち人間が生きていくには日々多くの「変化」を乗り越えていかなければいけない。良いと思う変化も悪いと思う変化も、色んな変化を繰り返して人は進んでいく。
そんななかでも何かが「終わる」というのはかなり大きな変化だろう。大抵の物事には終わりがある。いつまでも続くと思っていた夏休みにも必ず終わりが来るし、膨大に溜まっていた仕事もやり続ければいつかは終わるし、卒業したら学生生活は終わる。
そして「青春」にも確実に終わりが来る、と私は思っている。生涯ずっと青春を感じたまま生きていくことは出来ないのだ。
高校生の頃、当時付き合っていた彼氏と終電をわざと逃して深夜3時くらいにプラプラと散歩をしていたら制服だったからか、通りがかった警察官に呼び止められて学生証を出しなさいと言われ、咄嗟に「コスプレです、彼氏の趣味で」と嘘をついて誤魔化したことがあった。
最寄駅から家までの帰り道、家に着いたけれどイヤホンから流れる音楽がまだ序盤で、何だか帰りたくなくなってもう一度駅までブラッと歩いてみたりしたことがあった。
部活がキツすぎてやめたいと顧問の先生に言ったら、何も言葉を発さずにその場を離れられたことがあった。その後、少しだけ泣いた。
良いことばかりではないけれど、この瞬間私は紛れもなく青春を体感していた。それはきっとこの時感じた感情がどれも新鮮なものだったからであろう。
青春とはきっと、初めての感情を味わう時のことを指すのだと思う。少女はいずれ必ず少女ではなくなり、永遠などといった言葉は存在しない。
この間、すごく夕日が綺麗な日があった。マジックタイムの一番良い時間の時、私は友人とコンビニでアイスを買って黄色信号を走って渡った。真夏日でアイスがどんどん溶けてきて、地面に落ちて、何だか楽しくなって笑った。だけど、その時の私はそのキラキラした瞬間だけを楽しむことはできなくて、あぁ、この後帰って家に着いたらあのメールの返信をしないといけないだとか、明日までに企画書をつくらなくちゃだとか、そんなことばかりが頭をよぎってしまった。
その時、何だか分からないけれど、あぁ、私の青春はもう終わってしまったんだなあと思った。
だけれど、その代わりに何かが始まる気がした。
今月のエモい一枚:タイムカプセル
先日小学校の時のタイムプセルを掘り起こしに行きました。結局埋めた場所が分からず、発掘出来ず…(タイムカプセルを掘り起こせないことってあるあるなのでしょうか…)
●プロフィール
1998年生まれ。中学生の頃より映像制作を始める。慶應義塾大学在学中。主な監督作に映画『脱脱脱脱17』(16/ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016 審査員特別賞&観客賞受賞)、『過ぎて行け、延滞10代』(17)、HKT48『キスは待つしかないのでしょうか?』MV、フジテレビ『平成物語』、テレビ東京『恋のツキ』(第4、9話担当)など。18年4月、TBS『情熱大陸』に密着された。第29回東京国際映画祭フェスティバル・ナビゲーターを務めた。
文/松本花奈
「DVD&動画配信でーた」2018年9月号 (2018年8月20日発売)で連載スタート!
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