【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第2回 無駄な時間を愛したい
「DVD&動画配信でーた」9月号よりスタートした、注目の現役女子大生映画監督・松本花奈による新連載「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第2回のテーマは「無駄な時間を愛したい」です。
“時間”は誰しもに平等に与えられた財産である。 が、前に進める日ばかりではなく、後ろに進んでしまった日だってある。そんな日々をまるっと愛せるようになるには、どうしたら良いのだろうか?そんな疑問に、松本監督が向き合います。
心機一転日記をつけ始めたが、3か月も続かず
1日は24時間で、1週間は7日間で、1か月は30日前後で、1年は365日だ。当たり前だが、これは揺るがない事実である。様々な技術が目まぐるしく発展していき、ドラえもんのひみつ道具がどんどん現実に出現し始めている昨今だが例えば“タイムマシン”や“スピードどけい”などの時間の感覚を変えるものは未だに人類は発明できていないし、きっとこれからもそこだけは動かすことができな いものなのだと思う。時間というのは本当に不思議なもので性別も国境も、人類・植物・動物の垣根を超えて少なくともこの地球上に存在するものたちには共通して同じ時間が流れていて、きわめて平等なものなのだ。
人は成長する生き物であり、おぎゃあと生まれた時から死ぬまでで考えると(もちろん寿命は人それぞれであるにせよ)そりゃあもうすごく進化するのだろう。昨日よりも、今日の方が少なからず成長はしていて、きっと今日よりも明日の方がわずかにであっても成長しているのだと思う。が...果たして本当にそうなのだろうか、という疑問を最近持ち始めた。
というのも、今年の4月1日に心機一転私は日記をつけようと思いついた。結局日々のバタバタに時間を吸い取られ3か月ともたなかったが(反省)、その時に記していたことを最近見返すと中々面白い。書き出しと終わりだけ一部記すと
2018年4月9日(月)
「今日から大学が始まった。死ぬ思いで起床。ちゃんと起きれた。ダッシュで健康診断へと向かう。(…)渋谷の宇田川カフェに再び参上。◯◯の企画を考える。めっちゃ考えた。ノートにいっぱい書いた。誰か褒めて。終電ギリギリで帰宅。眠たいー。」
2018年4月11日(水)
「若干寝坊する。どうにかして一限の中国語へ間に合うために髪の毛は洗わず風呂へ入るが、流石に間に合わず。30分くらい遅刻する。流石にロケ地などの準備がやばいので内職、内職。(…)15分くらい車を走らせてファミレスへ。電源もWi-Fiもあるなんて最高じゃないか!◯◯さんは大学の企画を考えていた。テンション高い。楽しかったし、作業が捗った。◯◯さんはパフェを食べていた。はなはポテトを食べた。山盛りにしたら多くて残してしまった。エモい、エモいぞー!無理にでも、人生はエモいと思わないとやっていけないじゃないか。◯◯さん、ありがとう。お休みなさい。」
2018年4月12日(木)
「昼まで寝る。流石に疲れた。授業にもゼミにも行けずひたすら作業。じゃないと間に合わんぞ、これ。(…)もう朝の5時だ、、、。とりあえず寝よう。気持ちは離れたくないし、慣れたくないし、ドキドキ、ドキドキしてたいよ。」
これは本当に一部で、もちろんここには書けないようなことなどもバリバリ書いてあるのだが、とにかく読み返して思ったのは、日々そこまで成長出来ていない時も多くあるな、ということだ。1日何もしていなかったり、逆に物凄く無駄な動きをしてしまっていたり...。
きっと人はそこまで器用に生きることは出来なくて、私たちが人生で達成できることなんてひとつあれば良いくらいのものだ。
私は高校生の時、ダンス部で毎日必死に練習をして向き合っていたのだが、高校を卒業してからはそういえば一切触れておらず、且つきっとこれからの人生で私はダンスの世界に足を踏み入れることはないと思う。それでもあの瞬間にダンス部にいた時間というのは決して無意味ではなかったのだろう。何故なら、その時に感じた感情はきっとその瞬間にしか感じられなかったものだし、そうしてある意味での寄り道をしたことで得たものはあったはずだ。
社会人の人に、学生時代の部活動や大学での学部、趣味などを聞くと意外といまついている仕事と全然違うことだったりする。
感情は意外とその時に残しておかないと忘れてしまう。だから私たちは日記を書いたり、映画や音楽をつくったりして記憶を保存していくのだと思う。感情を沢山知るために無駄なことに無駄な時間をいっぱい使うべきだし、そうしてその時に思ったことを何らかの形できちんと保存できるようになったら、それはもう素晴らしいことだろう。
今月のワクワクな一枚:新宿駅のプリズム
徹夜明け、フラフラで、イライラ。新宿駅のホームをズルズルと歩いていたら、光の反射でで きた虹を地面に発見。たまには下を向いて歩く日があっても良 いなと思いました。ワクワク。
●プロフィール
1998年生まれ。中学生の頃より映像制作を始める。慶應義塾大学在学中。主な監督作に映画『脱脱脱脱17』(16)、『過ぎて行け、延滞10代』(17)、HKT48『キスは待つしかないのでしょうか?』MV、フジテレビ『平成物語』、テレビ東京『恋のツキ』(第4、9話)など。橋爪駿輝の小説『楽しかったよね』の一編を本田翼主演で映像化した『ファン』がYouTubeで公開中。
文/松本花奈