『クワイエット・プレイス』監督が語る、“音が無い”ことへのこだわりとは?
1700万ドルの低予算で製作されながら、オープニング週末に5000万ドルを超える興行収入を記録し、見事初登場1位を獲得。2018年公開のオリジナル作品でNo. 1大ヒットとなった『クワイエット・プレイス』(公開中)。監督・脚本・製作総指揮・出演の4役を務めたジョン・クラシンスキーは「“音”がこの作品の肝。というか、“音がない”ということが肝であり、同時に一番の不安要素だった」と明かす。
音に反応して人間を襲う“何か”によって荒廃した世界を舞台に、生き残った1組の家族が静寂とともに暮らしていく姿を描き出した本作。全米では公開と同時に映画ファンや批評家、さらにはホラー小説界の大家スティーヴン・キングから大絶賛を獲得。とはいえ、クラシンスキー監督はこの斬新なアイデアを実現するまでの過程を「綱渡りのようでした」と形容し「うまくいけばすごいものになる。そう確信していたけれど、うまくいかなければ、大失敗だとも思っていた」と振り返った。
これまでマイケル・ベイ監督やナンシー・メイヤーズ監督、キャスリン・ビグロー監督やキャメロン・クロウ監督など錚々たる監督たちと、俳優としてタッグを組んできたクラシンスキー監督。彼にとって3作目の監督作となった本作を成功に導いたのは、俳優としてのキャリアで培った経験と、実の妻であり劇中でも夫婦役で共演するエミリー・ブラントの存在に他ならない。
「あらゆる監督の製作過程を間近で見られるということは、俳優をやっていて得られるありがたい特典のひとつです。本作でも、色々な監督から吸収してきた仕事の進め方が活かされました」と語るクラシンスキー監督は、成功の秘訣についてこう明かす。「一番大切なのは共同作業。今回のように才能豊かなメンバーが集まると、自ずとチームとして機能する。アイデアが良ければ採用。それだけです」。
またエミリーとの共演については、彼女の次回作である『メリー・ポピンズ リターンズ』(2019年2月1日公開)を手がけたロブ・マーシャル監督とのエピソードが語られた。「撮影が始まる前の週に編集スタジオで彼に会って、いつから撮影なのかと訊かれたんだ。1週間後だと答えたら、彼は『楽しみだね!じきにわかるよ』と言うから僕は『知っています。僕は彼女の1番のファンですから』と答えたんだ。すると彼はこう言ったんだ。『同じ空間で体験するまでは、君の奥さんがどれほど素晴らしい女優かわからないと思うよ』と」。
クラシンスキー監督とエミリーは過去に『ザ・マペッツ』(11)でともにカメオ出演を果たし、2014年に全米公開された宮崎駿監督の『風立ちぬ』(13)でエミリーは菜穂子役を、クラシンスキーは本庄役の英語吹替えを担当。初めての本格的な共演で、そして演出する立場となったクラシンスキー監督は「最初のテイクが終わって、衝撃が走りました。マーシャル監督に言われた通りだった。エミリーの演技に圧倒されて、言葉にならなかった」と、その才能の豊かさに改めて驚かされたようだ。
さらに、ジョエル&イーサン・コーエン監督の『ノーカントリー』(07)やポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)を参考にしたとも語るクラシンスキー監督。「重要なシーンで沈黙がすごく活きている。具体的な音の使い方は、出演した作品よりも観てきた作品のほうが参考になりました」。
最後にクラシンスキー監督に、“音が無い”ことをこだわり抜いた本作が日本では「爆音上映」として高音質な大音量で上映されると教えると「それはすごい!」と、いまにも“何か”がやって来てしまいそうなほどに大はしゃぎ。「チケットはどこで買えるんだい!?」と、日本発祥の上映形態に強い興味を示した。
文/久保田 和馬