佐藤二朗が、日本語吹替版ボイスキャストやMCに初挑戦した理由とは?
ジョン・ベレアーズのファンタジー小説を映画化した『ルイスと不思議の時計』(10月12日公開)で、ジャック・ブラック演じる主人公の伯父ジョナサンの日本語吹替版ボイスキャストに初挑戦した佐藤二朗。ドラマや映画、舞台で、絶妙な笑いのスパイスを与える個性派俳優にして、バラエティ番組「超逆境クイズバトル!! 99人の壁」ではMCも務めている。Twitterのフォロワー数も100万人を超えるなど、マルチな活躍を見せる佐藤に、アフレコの収録秘話から、仕事に対するスタンスについて話を聞いた。
本作は、スティーヴン・スピルバーグ率いる制作会社、アンブリン・エンターテインメントが贈るファンタジー映画。両親を亡くし、魔法使いの伯父ジョナサン(ジャック・ブラック)の屋敷で暮らす少年ルイス(オーウェン・ヴァカーロ)が、ジョナサンと共に、世界を破滅に導く時計を探し出そうとする。
佐藤は『インサイド・ヘッド』(15)や『メアリと魔女の花』(17)でアニメ―ション映画のアフレコは経験済みだったが、実写映画で同じ俳優に声をあてるということで、少し勝手が違ったようだ。
「僕は『スクール・オブ・ロック』のジャック・ブラックが大好きだったので、アフレコをやらせてもらえたことは非常に光栄でした。今回の彼の演技は少し抑制が効いていて、そこが芝居の肝だから外さないようにしようと思いました。でも、すごく難しかったです」。
気の利いたアドリブ演技にも定評のある佐藤だが、今回のアフレコではそれを禁じて臨んだ。「『Mr.Boo!ミスター・ブー』シリーズで、マイケル・ホイさんの吹替えを広川太一郎さんがやっていて、日本人にしかわからない台詞や、全然口の動きと合ってない台詞もあるんですが、それが抜群におもしろいんです。でも、本作はそういうタイプの映画じゃない。ファンタジー映画だから、そういった遊びは封じられるべきで、佐藤二朗が吹替えをやっていることすらも忘れてもらったほうがいいと思いました」。
本作の物語にも心を動かされたという佐藤。「主要な登場人物3人は、みんなが心に傷をもっていたり、ポンコツだったりします。そんな負の部分を抱えた3人が、圧倒的な力に挑むというストーリーにワクワクしました。楽しいとか怖いとかだけじゃないテーマがあり、大人も子どもも楽しめる映画になっています」。
初挑戦というくくりでいえば、10月より、佐藤が初めてレギュラーとしてMCを務める「超逆境クイズバトル!! 99人の壁」がスタートした。単発番組からレギュラー番組に昇格したこの番組について、佐藤は「1回で終わると聞いていたからやったんです。僕は役者なので、MC業に進出するなんて、できるわけがないとも思っていたので。だから司会はもうあの番組しかやりません」と恐縮する。
それでも、今回のオファーを承諾したのは、敬愛する舞台関係者の助言が大きかったよう。「その先輩が『40歳になるまではどんな仕事も断るな』と。『40歳を過ぎたあたりから、“この人はこういうものをやる人” “こういうものを絶対にやらない人”と決められてしまいがち。それまでは、どんな可能性があるのかわからないから、来た作品は絶対に断るな』と言われて。僕はいま49歳で、その年齢はとっくに過ぎているんだけど、精神年齢は8歳なので(笑)、そこはもう少し遅らせてもいいのかなと」。
さらに「なるべく前の現場での経験を積み上げないようにしているんです」とも語る佐藤。「現場の数だけやり方が違うので、『前の現場はこうだったけど、なんでこうじゃないの?』と文句を言うのはよくないなと。経験値というのは意識しなくても、無意識に積まれていくと僕は思っているので、なるべく意識的に積み上げないようにしています。少なくとも、僕の好きな先輩俳優の皆さんはそういう感じで、いまと過去の現場を比べたりはされないです」。
また、年齢を重ねていくことで、人の演技の“受け手”となることの楽しさを覚えてきたと言う。「若いころは『自分の話を聞いてほしい』『俺の芝居はこうだから認めてほしい』という感じだったけど、40代になって、人の意見を聞いたり、芝居において相手役の芝居を受けることが、すごく楽しいと思えてきました」。
佐藤の2018年を振り返ってみても、本作をはじめ、『50回目のファーストキス』(18)や『銀魂2 掟は破るためにこそある』(公開中)での演技や舞台挨拶、MC業において、佐藤の名レシーバーぶりはもちろん、同業者の魅力を引き出す“切り込み隊長”としての切れ味も鋭かった。マルチプレイヤーには違いないのだが、それらの土台にあるのは、あくまでも役者・佐藤二朗であり、そこにはブレがない。
佐藤の座右の銘は「芝居はなるべく真摯に、精神年齢はなるべく低く」だ。「僕は将来的にこうなりたいというものが特になく、ただ目の前にある芝居をとにかく誠実にやりたい、それだけです。精神年齢はもともと低いので、そこは努力しなくても大丈夫」と言った佐藤の笑顔が最高だった。
取材・文/山崎 伸子