あの“ゴッホのひまわり”を量産する村があった!?知られざる複製画の世界
美術館の土産屋などで見かける本物そっくりな名画のレプリカ。いわゆる“複製画”と呼ばれるそれが、どこで誰によって描かれているのか、意識したことのある人は少ないだろう。実は古くから産業として確立されている“複製画ビジネス”に迫ったドキュメンタリーが、『世界で一番ゴッホを描いた男』(公開中)だ。
本作の主人公は、中国は深圳(セン)市の街に暮らす趙小勇(チャオ・シャオヨン)。フィンセント・ファン・ゴッホの作品に魅了された趙は独学で油絵を学び、20年もの間ゴッホの複製画を描き続けてきた。絵を描くだけでなく、寝食も工房で過ごす彼には、ゴッホ美術館へ行き本物のゴッホ絵画に触れたいという夢がある。そんな念願が叶い、彼はアムステルダムへ赴くことになるのだが…。
複製画のみを手掛ける絵描きは「画工」と呼ばれ、趙が暮らす「大芬(ダーフェン)油画村」では、世界市場の6割もの複製画が制作されている。1989年に香港の画商が20人の画工を連れてきたことが油画村の始まりであり、近年は観光地としても有名に。現在、油画村には約1万人の画工がいると言われている。毎年、数百万点の油絵がこの街から世界中へ売られていき、その総額は2015年で6500万ドルを超えているのだ。
画工たちは、衣食住が一体となった工房で壁に向かいながら黙々と複製画を描き上げていく。彼らが高級な画廊で販売されていると信じる複製画は、実は街中の土産店などで卸値の8倍以上の価格で売られており、映画ではビジネスのからくりを知った趙が愕然とするシーンも描かれる。一方で、最近は中国でも人件費が上がってきたことで、画工のなり手が減少傾向にあり、海外のクライアントに値上げ交渉をする者もいるようだ。
自分は複製画職人なのか、はたまた芸術家であるのかと思い悩む趙。複製画ビジネスの闇と、一人の“アーティスト”の実情にも迫る意欲作だ。
文/トライワークス