恋愛映画の旗手・今泉力哉監督が明かす「パンバス」舞台裏の注目ポイントは?
元乃木坂46の深川麻衣が映画初出演にして初主演、共演に山下健二郎(三代目 J Soul Brothers)を迎え、今年2月にロングランヒットを記録した恋愛群像劇『パンとバスと2度目のハツコイ』のBlu-ray&DVDが11月21日にリリースされた。「結婚」をテーマに“恋愛こじらせ女子”が中学時代の初恋相手と再会したことから始まる本作を、完全オリジナル脚本で作り上げた今泉力哉監督に、特典映像の見どころと、監督自身の今後について話を聞いた。
先日行われたTAMA CINEMA FORUMでは深川と伊藤沙莉が最優秀新進女優賞に輝き、今泉監督も最優秀新進監督賞を受賞した。今泉監督と言えば、過去に『最低』(09)で同映画祭の新人発掘部門として知られる「TAMA NEW WAVE」のグランプリを受賞。ゆかりのある映画祭での受賞に「こうしてTAMA映画祭に帰ってこられたのは光栄なこと。それに『パンとバスと2度目のハツコイ』は自分の中で賞向けの作品じゃないと思っていたので、呼んでいただけてうれしいです」と顔をほころばせた。
今回発売されたBlu-ray&DVDの初回生産限定版には、深川と今泉監督によるビジュアルコメンタリーを始め、メイキング映像やインタビュー映像、第30回東京国際映画祭での舞台挨拶、初日舞台挨拶などのイベント映像が収録されている。今泉監督は「俺はオーディオでいいと思います(笑)。でも深川さんをずっと観られるのはいいですよね」と、初挑戦となったビジュアルコメンタリーを振り返り、照れ笑いを浮かべる。「緊張しましたけど、とてもおもしろかった。結構話せたと思います」と満足そうに語った通り、ビジュアルコメンタリーの中では、深川と共に本編映像を観ながら、撮影時の興味深いエピソードを披露している。
そんな特典映像の中で、とくに今泉監督が注目してほしいと語るのはメイキング映像とのこと。「自分がこういう風に演出しているんだと、改めて確認できたのは僕自身にとっても良い発見でした。これから映画を作りたいと思っている人の参考になるかはわからないですが、自分の作品を気に入ってくれている人が観たら、演出方法や、現場の空気が見えてくると思います」と語り「深川さんや山下さん、そして志田(彩良)さんの、本編ではカットしてしまった映像が残っているのでとてもおもしろいと思います」と、キャストファンにとっても必見の仕上がりになっていることを明かした。
また、ビジュアルコメンタリーの中で今泉監督は、本作のラストシーンで山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズの25作目『男はつらいよ ハイビスカスの花』(80)にオマージュを捧げていることを告白している。「誰も気付かなかったですけどね」と笑う今泉監督は、ほかにも本作に登場する洗車シーンの閉鎖的な雰囲気はミヒャエル・ハネケ監督の『セブンス・コンチネント』(89)から、監督の持ち味のひとつでもある男女の距離感はジョン・カサヴェテス監督の『ミニー&モスコウィッツ』(71)から、そしてコメディシーンに流れる空気感は山下敦弘監督の作品から、それぞれ影響を受けていることを明かす。
「毎回いろいろな映画からアイデアをもらいながら、でも中身の部分は自分の思っているところから離れないように気を付けています。映画から映画を作っていくと、どうしても内容が薄まってしまうので、あくまでも“要素”として扱うようにしています」。様々なテイストの作品から受けた影響を、自身のビジョンに還元させていくことで、“今泉力哉ワールド”の持つオリジナリティはより一層強靭なものになっているのだ。
第31回東京国際映画祭でコンペティション部門に出品された『愛がなんだ』(2019年春公開)も控える今泉監督は、日本の恋愛映画界を担っていく存在として注目を集めている監督の一人。「最近では新作の依頼をいただけると、毎回『今回はポップに』って言われるんですよ(苦笑)」と、常に一貫したテーマの作品を、独自の作風で描きだしてきた監督ならではの悩みを明かす。「もっと観やすい映画が求められているのかなと思うのですが、それではみんな同じ映画になってしまうような気がします」。
そして「ポップな作品は多分、僕には難しいと思います。できることとできないこともわかっているので、新しいことにチャレンジしていくというよりも、このテイストの作品でもっともっと結果を残していきたい」と、これまでの作品で守り続けてきた独特な“テンション”を、今後も維持していくことをにおわせた。「でも、恋愛以外のジャンルもいずれはやってみたいと思います。“誰も死なない家族の話”を撮ってみたいな」と新たな挑戦も視野に入れているようだ。
最後に今泉監督は『パンとバスと2度目のハツコイ』が自身のキャリアにおいて「今後の指標になっていく作品」と形容する。「オリジナルであり、有名なキャストさんが出演していて、これまで自分がやってきたようなテイストの作品。それがこうして花開いてくれた」と、確かな手応えを感じているようだ。今泉監督のフィルモグラフィーが今後さらに充実していくなかでも、本作はひときわ輝きを放ち続けるに違いない。
取材・文/久保田和馬
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