フランスで大ヒット『プチ・ニコラ』のローラン・ティラール監督にインタビュー
フランスで3週連続興行成績1位を獲得した『プチ・ニコラ』(10月9日公開)。日本公開を控えたローラン・ティラール監督がインタビューに応じた。
同作は、フランスの作家ルネ・ゴシニと、デッサン画家ジャン・ジャック・サンペにより、1959年に誕生した大人気絵本「ル・プチ・ニコラ」の映画化作品。友人たちに囲まれ、幸せに過ごしている小学生の男の子ニコラ(マキシム・ゴダール)。ある日、ニコラは両親の会話を聞いて、母親にもうすぐ赤ちゃんが生まれると信じ込む。弟が生まれたら自分は大事にされなくなり、森に捨てられてしまうと思ったニコラは仲間たちと様々な作戦を考え実行する。だが、彼らのとんでもないアイデアに街全体がパニックになってしまう。
――『プチ・ニコラ』という国民的キャラクターと題材にプレッシャーを感じませんでしたか? 準備から制作までについて教えてください。
「それまでは自分が望むように映画を作っていたので、自分自身とプロデューサーが納得していればすみましたが、この映画に関しては、最初の依頼の電話を受けた時、題材に対して恐れさえ抱きました。でも、怖がっていては始められません。ただただ、人々が作品を気に入ってくれることを願うのみでした。映画化の鍵は、原作ルネ・ゴシニの作品の中と同時に、彼の人生の中にあるとわかっていました。彼は、社会における自分の居場所を探しており、笑いを通してそれを手にいれようとした人です。映画の冒頭では、ニコラは将来何になりたいかと聞かれてもわかりません。そして最後に、それがわかるのです。これを軸にして、わたしたちは原作に目を通し、物語、場面、台詞をひとつひとつ細かく分析していきました。そこから選択をして、気に入ってる場面でもどんどん削除しなくてはなりませんでした。わたしたちは、最初の脚本を書き上げるまでに、何ヶ月もかけて原作を分析し、物語がスムーズに展開し、一貫性を持つようにしました」。
――この映画のビジュアルはとても素晴らしいのですが、視覚的世界をどのように創られたのですか?
「映画のエスプリの大部分はそこに現れると分かっていましたので、学校、教室、校庭、家の中といった、いくつかの装飾についてははっきりしていました。ジャン・ジャック・サンペの画の線を丸写しでは、わたしたちの魂がなくなってしまいますので、ディティールを損なうことなくミニマリストになる必要がありました。この点においても、わたしはジャック・タチ監督に非常にインスピレーションを受けました。彼はディティールの感覚に長けていますが、装飾に必要なディティールしか存在させません。また、わたしはウェス・アンダーソン監督の演出も好きです。彼のフレーミングは非常に固定されているにも関わらず、そこで必要なことが全て語られます。わたしにとっては、映像と装飾が組み合わさった中で物語を生かすことが大変重要でした。最終的には『プチ・ニコラ』の装飾はわたしの両親が見せてくれた彼らの子供時代の写真、とにかくわたしがまだ生まれていなかった時代のことを強く連想させるものになりました」。
――子供たちのキャスティングはいかがでしたか?
「最も重要なのは、子役の選択でした。大規模なキャスティングを行い、映画に出たことのない子供たちにもたくさん会いました。主要な子役たちを選ぶのは難しくなかったのですが、彼らがカメラの前で演技できるかは心配でした。彼らが撮影現場でありのままでいられるということを前提に、顔つきや個性を基準に選んでいたからです。わたしは子供たちと撮影をしたことはなく、わたしにとって全ては未知の分野でした。でもそんな心配は吹き飛ぶほどに彼らは素晴らしかったです。初めは当然のことながら、子供たちは少しばかり圧倒されていましたが、すぐにのびのびと振舞うようになっていました」。
――主演のマキシム・ゴダールについて教えてください。
「ニコラにそっくりな容姿は非常に魅力的でした。また、彼の俳優になりたいという強い意志も。彼は9歳にして社会の中での自分が望む立ち位置について非常に明確なビジョンを持っており、人生で何がしたいかをわかっています。マキシムの素晴らしいところは、他の子供たちよりもさらに演じることに対しての意欲と喜びが強かったことです。彼は一度たりとも、少しの疲れや中断したいという素振りさえも見せませんでした」。
――監督自身が特に心に残るお気に入りの場面はありますか?
「脚本を書いている時から気に入っていた場面があります。ニコラが寂しかった時、父親が面白い顔をするので、ニコラはそれ以上、しかめ面をしていられなかったというセリフのない場面です。うまく説明できませんが、わたしはこの場面に強く感動します。わたし自身の子供時代、わたしと父親との関係、そして間違いなくわたしの息子との関係と確実に共鳴しているのです」。
――この映画を観る人に感じとってほしいことは?
「子供時代が強くよみがえってくれればいいなと思います。どの時代に子供時代を過ごしたとしても、観客それぞれが自分の子供時代にかえり、そこに純真さ、無邪気さ、感激を再び見てほしいです。もしかしたら、この映画が違う世代の人どうしがお互いの子供時代について話すきっかけになるかもしれませんね。お祖父さんが孫と一緒にこの映画を見に行って、孫と同じことを感じることができるのですから」。
2009年のフランス国内観客動員は『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(09)に次いで4位、観客動員552万人を突破し、大ヒットを記録した本作。マキシム・ゴダールと仲間の子供たちのかわいらしい魅力たっぷりの演技に注目だ。【MovieWalker】