『来る』の岡田准一、松たか子の役は「外見だけで迫力があった!」
澤村伊智による第22回日本ホラー小説大賞受賞小説「ぼぎわんが、来る」を、『告白』(10)の中島哲也監督が映画化した『来る』(12月7日公開)で、岡田准一と松たか子が初共演。いつもながら卓越した映像センスにうならされる中島作品で、アクの強いキャラクターを演じた2人を直撃。中島組初参加の岡田と、『告白』の主人公を務めた松に、監督の演出や初共演した感想などについて聞いた。
初共演する前に抱いていたそれぞれの印象とは?
初顔合わせということで、まずはお互いの印象について尋ねてみると、岡田は松について「1つ1つの仕事をすごく大切にされている方。女優業もそうですが、音楽も1音1音を大事にして歌われているイメージです」と、彼女の仕事に向かう姿勢を称賛する。
松は「いやいや」と照れながら笑ったあと、岡田について「仕事を着実にされる方」とリスペクトする。「みんなに愛されるアイドルで、音楽もいい曲をいっぱい発信されてきました。俳優としても大河ドラマであれ、映画であれ、仕事への向き合い方がすごくちゃんとしている。でも、ご本人はひょうひょうとしているイメージです。今回、中島組でご一緒できるのをすごく楽しみにしていました」。
2人がなかなか登場しない!? 斬新な構成の脚本
岡田と松のほか、メインキャストとして妻夫木聡、小松菜奈、黒木華といった日本映画界が誇る豪華な布陣を迎えた本作。岡田は、中島監督から直々にオカルトライターの野崎役のオファーを受けたそう。「中島監督から『やってほしい』という手紙をいただきました。手紙でのオファーは、『告白』の時の松さん以来だったと、スタッフさんから聞きまして。なにも言うことはない、監督を信じてついていくだけだと思いました」。
最初に登場するのは、イクメンの田原秀樹(妻夫木聡)。彼の周りで、超常現象のような不可解な出来事が連発する。田原は妻・香奈(黒木華)や幼い娘・知紗に危害が及ぶことを恐れ、オカルトライターの野崎和浩(岡田准一)に調査を依頼。野崎に紹介された霊媒師の血を引くキャバ嬢の比嘉真琴(小松菜奈)が、田原家に憑いている“なにか”を追い払おうとするが手に負えず、彼女の姉で最強の霊媒師である比嘉琴子(松たか子)を迎えることになる。
中島監督が手掛けた脚本は、語り手が異なる3章から構成された原作小説を踏まえており、最初に妻夫木演じる田原のエピソードがひたすら展開され、岡田たちがスクリーンに登場するのは、映画が始まってからしばらく経ったあとだ。
岡田は、脚本について「すばらしかったです。読むのが怖かったです」と語り、「構成力がすごい。こちらも言うことがないと思いました」と圧倒された様子。
中島監督の緻密なビジュアル設計と細やかな演出
松にとっては、『告白』(10)以来、8年ぶりの中島組となった。「中島監督から『今回の琴子さんにはユーモアがあります』と言われたので、彼女の行動自体がユーモアである、というふうになればいいなと思い演じました」。
松が演じた沈着冷静な霊媒師の琴子は、日本人形のようなストレートのロングヘアで、顔に傷があり、かなりの異彩を放つ。岡田は、初めて琴子を見た時に「『外見だけで迫力があった』と。松さん自身のナチュラルなイメージと全然違っていて、そのギャップがとても素敵でしたね。雰囲気だけであそこまで迫力を出せる方はなかなかいない」と相当驚いたそうだ。
松によれば、衣装合わせの時、琴子の衣装は2パターンが用意されていたそう。「現場に行って初めてこっちの衣装になったとわかりましたし、顔に傷があることもその時に知ったんです(笑)。自分としては、そのインパクトになんとかしがみついていくしかないと思いました」。
岡田が演じた野崎はワイルドな髭を生やしているが、髪型はもちろん、髭の長さも6mmと指定されていたようだ。「監督のなかで、キャラクターのビジュアルが決まっていました。最近の僕は、武士など強靭な役が多かったけれど、今回はもう少し繊細な部分が欲しいということでした。演出も細やかで、感情表現についても、例えば『角砂糖を2個入れて欲しい』ということではなく、『3粒減らして欲しい』というような微妙なさじ加減の指示が入りましたが、とても楽しかったです」。
後編で怒涛の展開を見せる本作。松が演じた琴子は、激しいお祓いをするシーンがあるが、そのやりとりはどこか滑稽だ。「真面目に祓う人をきっちりやり切ることで、緊迫したシーンなのにどことなく『この人、可笑しい。ヤバイ』となるので、どれだけ笑ってもらえるのかが大事だと思いました。そうなると、琴子がどんどんおもしろい人に思えてきて、演じることがだんだん楽しくなっていきました」。
CMディレクターらしい緻密さと斬新さを兼ね備えた中島作品で、これまでにない新鮮な役どころを演じた2人。岡田が中島監督について「ホラーの怖さのなかで、人間そのものの怖さを撮る監督」と称していたが、映画を観終わったあと、その言葉を改めて思い知らされそうだ。
取材・文/山崎 伸子