ロビン・ライトがすべてを語る!「ハウス・オブ・カード 野望の階段」との別離、撮影続行の決断に隠された想いとは?
「デヴィッド・フィンチャーがテレビドラマを手掛ける、しかも配信で」。2012年に「ハウス・オブ・カード 野望の階段」製作の第一報が流れた時に、現在のNetflixの快進撃を誰が予測しただろうか。シンガポールにて行われたNetflixの新作発表イベントに登壇したロビン・ライトは、主演としてだけでなくプロデューサーや監督も兼任し、Netflix黎明期を支えた同志といった風情を漂わせながら、およそ6シーズンに渡り演じて来たクレア・アンダーウッド役との別れについて、そして今後しばらく女優業を休業するというショッキングな決断についても赤裸々に語った。
――「ハウス・オブ・カード 野望の階段」がとうとう完結しましたが、現在の心境は?
「政治の世界において、“最も腹黒く巧妙なカップルを説得力をもって描く”というゴールに向けて共に走り続けてくれたチームを誇りに思うわ。そしてなにより、その当初の目的を果たせたことにね」
――2012年に初めて本作の脚本を手にしたときのことを覚えていますか?
「デヴィッド・フィンチャーが最初のアイデアをプレゼンしてくれた時のことは覚えています。『テレビドラマをやらないか』って言われて、即座に『ノー』と言った。若いころにソープオペラのようなドラマに出続けて、『映画に出たいのに』って思っていた時代があるから。そのころは、まだ映画とテレビドラマは別々の捉えられ方をするものだった。そうしたら彼は、『これはただのテレビドラマじゃないんだよ。テレビに革命を起こすんだ。そんな革命的なアイデアに参加したいと思わないかい?』と私を説得したの。確かに映画のように1時間半や2時間という枠組みに囚われずにキャラクターを膨らませることができる。おかげで、私たちは6シーズンかけてキャラクターを育てることができた。製作において大いなる自由を与えてもらったけれど、デイヴィッドは長く続くとは思っていなかったみたい。彼は『だってほとんどの番組が、数年したら同じアイデアを繰り返すだけだろ?』と言っていたから。このシリーズが6年も続いたのは、ワシントンD.C.には貧乏クジを引かされる人が必ずいたってこと。そして、みんな『次は誰がいなくなるのかな?』って楽しみにしていました」
――最終エピソードの監督も務めていますが、常に頭にあったのはクレアとのお別れでしょうか?それともシリーズとのお別れ?
「そうですね…映画でも同じだけれど、自分が演じてきたキャラクターを安眠させないと。違いは、今回は3倍以上の長い間一緒にいたってこと。クレアのドレスと靴が懐かしいですね」
――この作品で女優として確固たる地位を築いたと思いますが、ハリウッドにおいてトップ女優として存在することの意味はどう考えますか?
「役者としては一旦終止符を打ったようなものなので、わからないけれど…。このシリーズはロングヒットの末に幕を閉じたけれど、私はこの6年間のうちに初めて監督を経験した。今後は監督として新しいプロジェクトに関わっていきたいので、現時点で自分が女優だという実感はないの」
――いつ頃から女優ではなく監督としてのキャリアを積みたいと考えるようになったのでしょうか。
「初めて監督をやった時のエピソードは、まさに“ハマってしまった”という感じだった。そして、1度ハマってしまうともう後戻りはできない。いまは俳優よりも監督として、人に影響を与えられるメッセージ性のある物語を形にしていきたいと思っている。どんな物語も観客に影響を与えることができる。それが私たちの生業ですから。明るい話でも暗い話でも、物語を伝えてそれが誰かの琴線に触れる。人々の心を動かすの。私は監督として、美しいメッセージをより多くの人に届けたいと思っているんです」
――シーズン6でフィナーレを迎えましたが、続編の可能性は?
「続編はないわ。『ハウス・オブ・カード』にお別れを告げなくては。おもしろいことに、最後のシーンをクリフハンガーのように感じた人は他にもいたようで、動画配信というプラットフォームだからそう感じるのかもしれない、と気づきました。配信ならば無限の可能性があるということね。答えはノーだけど(笑)」
――シーズン6撮影開始直後に作品存続の危機に直面しましたが、どのように対処しましたか。
「存続の危機ね…。まだ事件は終わっていない。“Me Too”問題は現在も進行中でしょう。あれは確かに、社会組織の一旦を担う出来事だった。誰もが驚き、ショックを受け、日々ニュースの真っ只中にいた。当時の空気はとてもデリケートかつヒートアップしていたので、とにかく冷静に話し合う場を持ちました。Netflixと製作会社と脚本家で集まって、 『いまは時間をおいて、物事が落ち着いて消化されるのを待ちましょう。作品とファンにとってなにが最善かを2か月後に話し合いましょう』と話しました。そしてクリスマス後に、『やっぱり元々の企画通りに終わらせるべきでしょう。ファンのために、作品を完結させないと』という結論に達したの。シーズン5のラストで、クレアが『私の番よ』と言ったように。なによりも、このシリーズを中断してしまうと、(ロケ地である)メリーランド州の1000人以上の人たちから、約束していたはずの職を奪うことになってしまう。子どもたちを養ったり、ローンを払ったり…彼らを路頭に迷わせるわけにはいかない。撮影続行はそんな理由からです」
――クレアが大統領になるために、フランクの不在は必要不可欠だったのでしょうか。
「クレアが大統領になるために、不在である必要はなかった。でも、フランク役を演じる俳優がいなかったので、脚本家がそのように決めたんです。確かに、影に隠れていたり、会話で感じさせることもできたかもしれないわね。でもそれだと、不在が余計にややこしく感じるのでは?このやり方なら会話に登場させることもできるし、クレアとフランクは突如ライバルになってしまったため、存在感が欲しかった。脚本家にとってこの決断は簡単ではなかったと思う」
――物語の結末は1つだけだったのですか?
「最終話には3本の脚本がありました。朝から晩まで話し合い、アイデアを練りました。視聴者を満足させたいけれど、予定調和も嫌。シーズン6の撮影途中でその決断をしなくてはならなくて、とても骨の折れる作業だった。クレアとダグ・スタンパーの関係性を劇的に変化させる内容で、3種類のエンディングを用意していたんです」
――「事実は小説よりも奇なり」と言われますが、この6年間でアメリカの政治環境は大きく変わりました。
「それは常に困難だった。物語の大筋はできていても、それを世に出すまでに1年かかってしまうので、その間に現実で同じようなことが起きてしまうこともある。常に受け皿を用意していて、現実で同じようなことが起きたら内容を変えて撮影し直すこともあった。現政権下では、私たちのすばらしいアイデアが盗まれているみたい。いまのひどい状況よりすごいものなんて作れないわ(笑)」
――シリーズが完結するに際して、なにか記念にもらったものはありますか。
「大統領執務室でもホワイトハウスの廊下でも、どこにあるものでもいいよって言われたので、隣り合って飾ってあった2枚の船の絵をもらいました。闇夜を航海する船の絵で、鏡写しのようによく似ているんだけれど、逆の方向に進んでいる。すばらしい船旅が終わり、お互いにさよならを言う時がきた、というメタファーになっているような気がしたんです」
取材・文/平井伊都子