アップリンク吉祥寺がいよいよオープン!「映画館にはまだまだ可能性がある」
12月14日、吉祥寺パルコの地下2階に5つのスクリーンを持つ“ミニシアターのシネコン”、「アップリンク吉祥寺」がオープンした。このたび同劇場を運営する株式会社アップリンク代表の浅井隆氏に直撃インタビューを行い、吉祥寺に出店するに至った経緯と、ミニシアターを中心とした“映画館の未来”について話を聞いた。
現在、渋谷区宇田川町にある「アップリンク渋谷」は、カフェを併設した3スクリーンのミニシアターとなっており、多種多様な作品を上映。多くの映画ファンで日々賑わいを見せている。「3年くらい前からDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)を導入するようになって、ハリウッド作品からインディーズまで、上映できる作品の幅がかなり広がりました。そのおかげで、たくさんのお客様が来場してくれるようになりましたが、一方で週末には満席になってしまう」と、ミニシアターだからこそ起こりうるキャパシティ不足という悩みを語る浅井代表。「以前から、もう一つ映画館を作りたいと思っていたので、いよいよいそのタイミングが来たなと感じました」と、吉祥寺出店に踏み切った経緯を明かした。
いくつかの候補地が上がったなかで、吉祥寺という街を選んだ理由を訊いてみると、吉祥寺が映画興行における「都心」と「ローカル」両方を兼ね備えた場所であるからだという。23区外にありながらも、渋谷や新宿から20分圏内にあるこの街は、多くの若者が集まる、西東京の文化と流行の発信地。しかも、アップリンクの第1回配給作品となった『エンジェリック・カンヴァセーション』(85) の上映館は、14年6月に惜しまれつつも閉館した吉祥寺バウスシアターだっただけに、アップリンクと所縁の深い街でもあるのだ。
浅井代表は今回の吉祥寺出店を「“映画館という場所の未来”に回答を出そうと思って作りました」という。「シネコンが映画館のスタンダードになったいま、どの映画館に行っても同じ映画が上映されて、同じ雰囲気になっている。それにシネコンは大作映画を上映する場所となっていて、アート系の映画はどんどん追いやられている。もう一度、個性的な映画館を作ることで勢いを取り戻していきたい」と、90年代に一世を風靡したミニシアターブームの再燃へ向けた強い意気込みをのぞかせる。
アップリンク吉祥寺は、5つのシアターそれぞれが異なるコンセプトを持った内装デザインが施されており、音響や座席のこだわりはもちろんのこと、クラフトコーラ専門メーカー「伊良コーラ」や武蔵野生まれのビール、添加物の少ないホットドッグを販売するなどコンセッションも充実。さらにロビーには30枚のポスターを掲示するスペースと100種類を超えるチラシを設置するスペースも設置されている。「インディーズ映画にとってチラシは重要な情報発信手段なので、大事にしていきたい」と語る浅井代表は、ヨーロッパの“ブティックシアター”と呼ばれる個性的な内装の映画館をイメージしていることを明かす。
「映画館には、行くことでワクワクする演出が必要です。作品を生真面目に観るのではなく、生活の中でのちょっとした晴れの場であったり、日常とはちょっと違う場所にしていきたい」。そして「日本でなかなか観られない映画の権利も交渉を重ね、この映画館でしか観ることができない作品を上映していくことも考えている」と、多様な作品を日本の映画ファンに届ける“ミニシアターの新たな拠点”としていくことを宣言。そして最後に浅井代表は「映画館にはまだまだ可能性があります」と力強く語る。
オープニング企画として「見逃した映画特集Five Years」と題した過去5年の話題作150本超を上映するほか、エル・ファニング主演の『メアリーの総て』や、ロサンゼルスの少年たちの姿をリアルに描いた青春映画『KICKS /キックス』や、アカデミー賞受賞作『ディア・ハンター』の4Kデジタル修復版など、多様なラインナップが予定されているアップリンク吉祥寺。是非とも細部へのこだわりを感じながら、映画館で映画を観るという特別な体験を全身で味わってみてはいかがだろうか。
取材・文/久保田 和馬