阿部寛インタビュー「役者としての壁は高い方がやりがいがある」
フランス映画の巨匠ルイ・マル監督の代表作『死刑台のエレベーター』(公開中)が50年の時を経て、日本でリメイク。吉瀬美智子演じる手都芽衣子の愛人で、殺人を犯す時籐隆彦役で出演した俳優、阿部寛が本作についてたっぷり語ってくれた。
――原作映画は観られましたか?
「観て(撮影に)入りました。名前だけは知っていたんですが、まだ観ていなかったのでビデオを見せてもらって、オリジナル作品を確認しました」
――ご自身が出演をお決めになったきっかけは何でしょうか?
「50年前のフランス映画をアジアでリメイクするという思い切った試み、それを緒方監督がどの演出するのだろうと、面白いんじゃないかなって思い、それで演じてみようと」
――エレベーター内に閉じ込められるシーンでの撮影がほとんどだったと思うのですが、密室の中で演技するにあたり心がけたことはありますか?
「エレベーターに閉じ込められるって誰でも夢で見そうじゃないですか。僕も何回か見たことがあるんですが、ただ僕の場合はいつもエレベーターが急上昇する夢なんですけど。だから初めてな気がしなかったです。小さい頃に観た映画などの印象が強かったんでしょうね。演技自体は、そうですね、楽しく、孤独にやりました(笑)。実際、撮影に4日ぐらいかかりましたが、スムーズに行った方だと思いますよ」
――作品や役柄について、シンプルだからこそ難しいところはありましたか?
「作品に対して楽しくやっています。自分の演技が作品の一部になるように心掛けています。その作品の中での存在感を成立させれば、作品にとっても良い演技ができるんじゃないかなって。自分を客観的に見たり、シンプルな映画こそ自分にとっても勉強になるんじゃないですかね。後は(今回は)人と絡むシーンがないので、自分の妄想です。リメイクの場合は自分に吸収できるところ、自分の発想にないところを擬似してやってみようという考え方でやってます。リメイクじゃない新しい作品の場合は、できるだけいろんな方向に(自分を)引き離して演技するとか、見たこともない自分を表現してみることにすごく努力しますが。でも、両者とも自己満足にならないように、視聴者が納得するようにですけどね(笑)」
――今回、相手が見えないシチュエーションですが、そのあたりについては?
「演技の途中に、ここ(エレベーターの中)から逃げられるのではないかとか色々考えました。この間『パニック・ルーム』(02)をテレビで観たんですが、色々な映画の嘘が気になってつい文句を言いながら観てました(笑)。だから、色々と(撮影中)考えましたよ」
――本作では、1人で演技をするシーンが多かったと思うのですが、そのあたりは役者としてやりがいみたいなものはあったのでしょうか?
「人を殺して、そして自分のヘマで閉じ込められて、ましてや助けを呼ぶこともできない、時間の追い詰められ方や、いろんな精神的苦痛があると思うんで。何重苦にもなっている状況で、最後にエレベーターのドアが開いた瞬間に見せる顔が、オリジナルでもすごく印象に残っているんですが、それがその男の人生全てなんじゃないかなって思うんです。監督とも相談したりして撮影しましたが、なんだかんだ楽しくできました」
――では、もう一度本作にご出演の依頼があったら?
「今度は変に考えちゃいますね。オリジナルを観た時、難しいけれど逃げられるんじゃないかとかやっぱり考えました。監督に演出上、くだらない話をしたりしましたね。『これ、ロープ細過ぎて登れないんじゃないか?』とか(笑)」
――これまでの自身の芝居については?
「最近楽しいですね。同年代の役者もみんな楽しんでやってますし。舞台で自分の役者としての幅が増しました。(舞台を経験して幅が増して)2、3年経っていくと、これまで以上にできるんじゃないかなって思えてくるんですよ」
――過去に出演された作品や、演技に対するモチベーションについては?
「モチベーションが高くないと(演技が)できないし、好きだから役者として演技をしていますが、プレッシャーもあります。作品によって変わってきますが、プレッシャーを感じるという瞬間はありますね。やっぱり壁は高い方がやりがいはあるので、常に挑戦者のつもりで意識してやっています。越えたい壁みたいなものはあるから、この仕事をやっていけるんだと思います。だから、たまにめちゃくちゃ高い壁の仕事を選んでしまったりして(笑)。逃げたいなって思うこともありますよ」
――最後に、本作の公開を楽しみにしているファンに向けて、本作の見どころや着目すると面白い点などを教えてください。
「50年前のフランス映画を日本でリメイクする、場所もこだわり、フランス映画のテイストを出来るだけこだわってやり遂げた映画です。タイトル『死刑台のエレベーター』というように力強い、強烈なミステリーです。原作と見比べても面白いですよ」
気さくにインタビューに応じてくれた阿部寛。記者の質問にも1つ1つ丁寧に答え、終始和やかな雰囲気で行うことができた。本編ではほぼ1人での演技となったものの、阿部寛本人が語ったこだわりや演技に対するプレッシャーなどにも注目し、是非劇場で本作を堪能してもらいたい。【MovieWalker】