竹中直人インタビュー「役作りなんてありえない。役は現場で生まれるもの」

インタビュー

竹中直人インタビュー「役作りなんてありえない。役は現場で生まれるもの」

俳優、監督として多才に活躍する竹中直人が、鬼才・石井隆監督作『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』(10月2日公開)に主演。本作は、ふたりが主演&監督で組んだ『ヌードの夜』(93)の17年ぶりの続編となる。そこで竹中直人にインタビューし、石井隆監督との堅い信頼関係と共に、彼の役者スピリットに迫った。

石井監督作に多数出演してきた竹中。石井監督が本作の脚本を竹中へのラブレターとして書いたと聞くと、彼は「今の言葉に感動して、泣きそうになっちゃった」と言いながら「石井さんの現場に再び行けるってことがすごく嬉しかったんです」と目尻をゆるませる。

竹中の役は、前作同様“なんでも代行屋”を営む紅次郎。世捨て人のように生きてきた次郎が、ある日、少女れんと出会い、3人の女たちによる完全犯罪に巻き込まれていく。まず、17年ぶりに演じた次郎の役作りについて聞いてみたら「俺、そういうビジョンを持たないんです。台本も読み込まないし。ノリ一発なので」と、意外な答えが返ってきた。

「ビジョンを持つのが嫌なんです。そこに解釈が生まれてしまうと、組み立てるものができてつまらなくなるから。組み立てるのは監督の仕事、役者はただ現場に行くだけでいい。だから、自分が監督をする時はいつも役者に『台本読み込まなくてもいいですよ』って言うんです」。実に興味深い。そして奥深い。では、現場でどうやって役に入るのか?「役は現場で“生まれていく”というか、現場での日々の印象を積み重ねていくのが役者の仕事だと思います。映画っていつも順番に撮るわけじゃなく、バラバラに撮ってパズルを組み合わせていって、最終的に1つの作品になるでしょ。だから役作りなんてありえない。現場で大事なのは瞬発力と集中力」。

石井監督の今回の現場はどうだったのか。「やっぱり嬉しかったですね、石井組はいいです。それは月日が経っても全然変わらない。僕は、あまり人の技術的なことは分からない。そうでないものを感じることの方が楽しいです。石井隆という人間そのものを」。

では、現場ではどんなことを心がけているのか。「集中力を高めていくことに尽きますね。また、役者をどれだけ集中させられるかは、監督のエネルギーによるものだから。技術的なことではなく、役者は監督の発するエネルギーを受けて返すものだと思います」。

本作では、新星・佐藤寛子がれんという少女の心の闇を全身全霊で体現している。彼女の演技についても、竹中は「すごくエネルギーを発していました。あれだけ自分の体をさらけ出すのは大変なことですよ」と感心し、濡れ場のシーンでは「次郎が最終的に彼女の体を求めていくという、あの時間が印象的でした」と感慨深く語る。確かにふたりの絡みのシーンは、孤独なふたりの魂が共鳴し合うような“熱”を発しているようだ。

最後に、今後一緒に仕事をしたい監督や役者について聞いてみた。「オファーをもらったら、何でもやるというのはこの先もずっと変わらないです。でも、ポン・ジュノの映画に出たいです。『TOKYO!』(08)に出ましたが、また呼んでくれないかな。また、キム・ギドクの映画も好きです。共演したいのはエレン・ペイジ。『ハード・キャンディ』(05)を観てからいいなあって思って。トニー・レオンとも共演したいです」。

では、生涯の中で一番心に残っている映画は? 「1本選ぶのは難しいですね。自分の映画だと、初めて監督した『無能の人』(91)は絶対に忘れられない作品。つげ義春が大好きだから」。

最新作から、今後出演したい作品まで、たっぷり語ってくれた竹中直人。その表情からは、ただあふれるばかりの映画愛が伝わってきた。そんな彼と石井隆が組んだ渾身の作『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』で、ふたりのエネルギーを感じとってもらいたい。【Movie Walker/山崎伸子】

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