第91回アカデミー賞ノミネートの快挙!『未来のミライ』の魅力を齋藤優一郎プロデューサーが語る
2018年夏に公開された細田守監督の『未来のミライ』(18)。本作は第71回カンヌ国際映画祭の「監督週間」に選出され、第76回ゴールデン・グローブ賞アニメ映画賞にアジア映画として初めてノミネートされたことに続き、第91回アカデミー賞でも長編アニメ映画賞に選出されるなど、国内外で話題を振りまき続けている。Blu-ray&DVDが1月23日(水)よりリリースされることをきっかけに、スタジオ地図の代表取締役・齋藤優一郎プロデューサーに、もう一度細部まで見返したくなるような、こだわりの詰まった制作秘話を聞いた。
まず、主人公は4歳の男の子・くんちゃんで、彼の視点から描くという点が新鮮だった本作。くんちゃんは、未来からやってきた妹のミライちゃんと出会い、時空を超えて家族の歴史をめぐる旅に出る。生まれたばかりの赤ちゃんを迎えた4人家族の日常が生き生きと描写されているが、そこには『サマーウォーズ』(09)や『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)などと同様に、細田監督自身の体験と思いが盛り込まれている。
一級建築士・谷尻誠に家のデザインをオーダー
細田監督と言えば、実写映画さながらのコラボレーションを積極的に行う監督だ。例えば『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』で、おもに実写映画や舞台で活躍するスタイリストの伊賀大介を衣装に抜擢したことも記憶に新しい。今回は特に、アニメーションのみならず、映画界を越えたエキスパートたちとのコラボレートが画期的だ。
メインの舞台である、くんちゃんの家は日本のみならず世界でも活躍を続ける建築家の谷尻誠が設計し、黒い新幹線は実際の新幹線をデザインしている川崎重工業車両カンパニーの亀田芳高が手掛けた。また劇中に登場する絵本「オニババ対ヒゲ」と未来の東京駅に登場する遺失物係・駅長のデザインは、亀山達矢と中川敦子によるユニット「tupera tupera」が手掛けている。
齋藤プロデューサーによると、今回のデザインは“本物”にこだわったのだという。「映画の主人公である、くんちゃんは細田さんの息子さんがモチーフとなっています。だから他のデザインもそのトーンを揃えたかった」。
くんちゃんのお父さんの職業は建築家、そんなお父さんが子どもたちのために家を建てたらどんな家になるのか?そんなこともデザイン打ち合わせの議論に上ったという。「家のデザインはリアリズムではなく非常にコンセプチュアルだと思っています。映画の舞台となった横浜は日本の近代において、とても変化の激しかった場所。そういうところで、子どもの成長や変化を描くことと言うのも非常にコンセプチュアル。ある種、家は小さな子どもが住む世界の全てと言っても良いかもしれない、そういった世界の象徴性の中で子どもが成長していってほしいというコンセプトも表現してもらいました」。
毛の生えた黒い新幹線の誕生秘話に驚嘆
黒くてオオカミのように毛が生えた獣のような新幹線の制作秘話も実におもしろい。実はもともと、亀田氏にオファーする予定ではなく、デザインのリサーチをするために、取材に行ったことがきっかけとなった。
「まず、新幹線をデザインするうえで、子どもも大人も憧れる新幹線のデザインって、いったい誰がやっているんだろうといった素朴な疑問がありました。その議論の過程の中で、あの長いノーズの形を始め、きっと摩擦抵抗や空気抵抗などをAIが計算し、そこからの逆算でデザインがされているんじゃないかとかいろいろな意見があったんです。じゃあ実際、新幹線を作っている企業へ取材に行き、真実を突き止めようと川崎重工業さんを訪れ、亀田さんと出会ったんです。
そこで亀田さんが開口一番おっしゃったのは、実は、紙と鉛筆のスケッチからデザインは始まるという話だったんです。そう、亀田さんは天才的な技術者でもありながら、でもその前に、絵描きであり、ものすごいクリエイティブの才能にあふれた人でした。そのプロセスは、僕たちが映画を作っている過程と一緒だった。本当にビックリしたし、嬉しかったんです」。
しかし、その気持ちが最も大きかったのが細田監督だったそうで「急に『ぜひ映画に出てくる新幹線のデザインをお願いしたいんです』と切り出したそうだ。齋藤プロデューサーは内心「え!? 取材に伺っただけだったのに、オファーしちゃったよ」と固唾を呑んで見守っていたと明かす。
「実はこういうことって、たまにあるんです(笑)。クリエイター同士の気持ちが一致したとき作品に奇跡を起こしたりする、亀田さんも川崎重工業さんもとっても驚かれたかと思うんですが、こういう出会いや瞬間って、映画制作には本当に大事なことなんです」。
細田監督は、その場で亀田氏に脚本と“黒い新幹線”というキーワードだけを託した。その後、亀田氏から上がってきた1発目のデザインが、劇中の完成形、すなわちオオカミのように毛が生えた新幹線にほぼ近いものだったそうで、さすがに細田監督も驚いたそう。才能がまた違う才能を呼び寄せるというクリエイティビティの連鎖には、感動を覚える。これまで細田監督と一蓮托生で作品を手掛けてきた齋藤プロデューサーは、細田監督のもの作りについて「みんなと一緒に作りたい」「誰もやったことがない新しいことにチャレンジをしたい」という一貫した想いがあると話す。
「細田さんはもともと画家になりたかった人なんです。大学までずっと油絵を学んでいました。でも、学生時代のある瞬間、みんなで一緒に作品を作ることの楽しさを知ったんだと言っていたことがあります。アニメーション映画はたくさんの才能とたくさんの時間を必要とするものです。だからこそ、そういったことに耐えられる企画の強度が必要だし、みんなで新しいチャレンジをしていくときに、その作品と現場には絶対楽しさが必要なんです」。
また、細田監督を「永遠のチャレンジャー」と表現する齋藤プロデューサー。「細田さんはよく家族を描く作家と言われたりしますが、決して家族にだけ興味があるわけではありません。もっともっと人生のいろいろな局面を映画で描いていきたい、まだ描かれていない局面をアニメーションという表現を使って、誰も見たことがない新しい映画を作っていきたい、そう思っています」。
“作家が第一”として、天才・細田監督を15年間、陰日向で支えてきた齋藤プロデューサー。細田監督と共に率いるスタジオ地図の未来は明るい、と実感した。
取材・文/山崎 伸子
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