のび太が命を賭けるのは「当然」ではない【辻村深月×むぎわらしんたろう「映画ドラえもん」特別対談】
のび太が命を賭けるのは「当然」ではない
――お二人が勧める見どころを教えてください。
むぎ「僕は今回、亀のモゾのキャラクターデザインについて藤子プロから相談をうけ、少しお手伝いをさせていただいたこともあり、映画を観ながらずっと『モゾ、がんばれ!』って思ってました。モゾの活躍は見どころです」
辻村「私は、ゲストキャラのルカとのび太との友情に注目してほしいです。『映画ドラえもん』って友情を描くことが多いので、最初はただ、出会ったばかりのゲストキャラのためにのび太たちが頑張るのは当たり前、と思って書いていたのですが、監督から『のび太たちはどうしてルカたちのために命をかけられるんですか』『のび太にとって、ルカって何ですか』『友情ってなんですか』と、たくさん問いかけを受ける中で、私もただ『友達だから』ではない、のび太とルカだからこその関係性を考えていきました。物語の中盤、そんなのび太たちが友達のために旅立つ決意と覚悟を問われるシーンがあるのですが、そこもぜひ観ていただけたら」
――ところで、お2人は「異説クラブメンバーズバッジ」が実在するとしたら、どんな異説を唱えたいですか。
むぎ「架空の動物の世界があったらいいなあ。竜とか」
辻村「私はドラえもん実在説かな」
――それって異説ですか。
辻村「親が子どもに『ドラえもんはいるよ』って言っていた家庭は、きっと昔からいっぱいあるはずなので」
――たしかに、劇中のドラえもんによる異説の定義「長い間信じられている」は満たしていますね(笑)。じゃあ、もしドラえもんがいたとして、一番欲しい道具は?
辻村「いろいろあるのですが、昔から憧れの道具はホンワカキャップ(てんコミ30巻、「ホンワカキャップ」収録)です。ホンワカキャップを使ってジュースで酔っ払っているのび太たちが本当に楽しそうで、子ども心に憧れたのですが、私、いまでもお酒があまり飲めないので」
『のび太の太陽王伝説』の思い出
――辻村さんにとっての原作大長編のベスト1と、映画版ベスト1を教えてください。
辻村「原作大長編は『のび太と鉄人兵団』で、映画は『のび太の宇宙開拓史』(81)かな?『宇宙開拓史』は小さい頃、繰り返し繰り返しずっと観ていて、コーヤコーヤ星の世界観やロップルくんやチャーミーのキャラクターが大好きでした。ストーリーが完全に理解できるようになったのはきっともう少し後だったと思うんですけど、ラストシーンの美しさ含め、なんてすごい映画なんだろう、といまでも思います」
――ではもう少し縛りをつけて、原作なしオリジナル脚本の映画版ベスト1だと?
辻村「いろいろ好きなんですけど、むぎ先生が大長編を描かれた『のび太の太陽王伝説』が大好きです。のび太とそっくりの男の子・ティオが、ゲストキャラとしては珍しく弱音を吐く等身大の男の子で。弱いところを見せながらのび太と成長していくのが、観ていてグッときました」
むぎ「ありがとうございます。実は当時、自分の作品で2人のそっくりな顔の主人公を使った漫画を描こうと考えてたんですよ」
辻村「そのアイデアを『太陽王伝説』に使われたんですね」
――作中に出てくるのは「マヤナ国」だから、古代メキシコがモデルですよね?
むぎ「藤子先生が世界旅行でマヤ文明の遺跡に行かれた際の写真を見て、これだと。で、メキシコの伝説を調べていたら、ちょうど双子の伝説があったので、もともと持っていたそっくりネタをくっつけました。そして、メキシコに遺跡も見に行きました」
辻村「現地を!?」
むぎ「ええ。先生がちゃんと取材をして物語をつくっていたように、僕もちゃんと見てきて描かないとだめだって。先生が写っている写真と同じ場所で写真を撮れたのは嬉しかったです」
辻村「『太陽王伝説』は、キャッチコピーの『君は誰を守れるか。』も最高にかっこいいですよね。当時私は大学生だったのですが、劇場内の子供たちがドラえもんのオープニングに合わせて大合唱するのを観て、感動したんです。自分がそうだったように、下の世代の子たちが『今のドラえもん』を毎年楽しみにしている。その時に観た光景は、今年の映画の脚本を書く時にも、私を励まし続けてくれました。ああいう子たちがドラえもん映画を楽しみに待っていてくれてるんだって。大変だけど、とても幸せなお仕事なんだと思いました」
<後編に続く>
取材・文/稲田 豊史