阿部純子、日露戦争時代のロミジュリ映画『ソローキンの見た桜』に懸けた想い
例えば、ゆいがソローキンに、雨の中で抱きしめられるシーンも、同じ脚本なのに阿部とロデオンの間で、解釈の違いがあったよう。「お国柄によって愛情の示し方が違うんだなと感じました。ロデオンさんは、ゆいがもっと素直になって、男性の優しさや女性を敬う気持ちを素直に受け入れるんじゃないかと思われたそうです。でも、私は日本人だし、当時の女性としては、男性に対してはじらいをもっていたんじゃないかと考えました。文化の違いがあるので、現場ですり合わせないとわからないことがたくさんありましたが、だからこそお互いのお芝居を尊重し合い、良いシーンが作れたのではないかと。今回、本当に勉強になりました」。
阿部が女優として注目を浴びたのは河瀬直美監督作『2つ目の窓』(14)で、第4回サハリン国際映画祭主演女優賞や、第29回高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞した。彼女はそこでより広い世界に視野を向けるため、アメリカ留学を決意。本作でも流暢な英語を披露している。
「英語はいまも勉強中です。留学したきっかけは、世界中のすばらしい作家やクリエイターの方々と一緒に仕事がしたい、そういうチャンスがほしいと思ったことでした。『ソローキンの見た桜』でご一緒した方々は、まさにそういったクリエイティブな精神を持った方々ばかりで、本当にありがたい現場でした」。
阿部は、そういった充実感を感じつつ「自分としてはまだまだダメだと思うことが多いです。留学したのも、自分の芝居に自信をつけたいからでしたが、求めているレベルには届いていないと感じています。もっと見てくれている方と自分を納得させられるように、自分の芝居に自信を持ちたいです」と胸の内を吐露する。
近年、女優として目覚ましい活躍を見せる阿部だが「いまの仕事の状況もすべてが上手くいっているというわけではなく、悩んだり考えたりしているし、心の余裕もまだまだコントロールできていないな、と反省することもあります」と言う。「でも、周りの方々が助けてくださるし、なによりも映画が好きだという気持ちをずっと持ち続けて、頑張っていくことが大事なのかなと」。
戦争に翻弄され、後半で怒涛の展開を見せるゆいとソローキンのロマンス。阿部は今回の役柄を通して、どういうものを受け取ったのか。「愛情にはいろんな優しさがあるんだなと思いました。戦争という背景や、家の問題、時代性などいろいろなしがらみがあったなかでも、ゆいたちの恋はとても純粋だったと思います。そして、時代と国境を超えて、その思いが伝わっていく。私自身は、愛というものを改めて信じてみたくなりました」。
取材・文/山崎 伸子