文芸映画でありながら、中国で公開されるや、1か月で興収230億円を突破し、年間ベスト10入りという異例のヒットを記録した『芳華-Youth-』(公開中)。アジアのアカデミー賞ことアジア・フィルム・アワードでも最優秀作品賞を受賞するなど、評価も高いこの作品で何よりも目を引くのが、スクリーンから伝わってくる圧倒的な美しさだ。
本作は、1970年代の文化大革命まっ只中の中国を舞台に、歌や踊りで兵士たちを時に慰め、時に鼓舞する役割を担う軍の文化工作団に所属する若者たちが、毛沢東の死や中越戦争という激動の時代に翻弄されていく姿を描いた青春ドラマ。中国最大の映画賞・金鶏百花奨を5回、加えてヴェネチアやトロントなど数々の賞を受賞し、国内外で高い評価を受けているフォン・シャオガン監督の実体験に基づき、彼が“一番作りたかった”というセンチメンタルな感情が詰まった作品となっている。
物語は、ダンスの実力を買われ、文工団入りするも、周囲になじめずにいた17歳の少女シャオピン(ミャオ・ミャオ)と、そんな彼女の憧れである模範兵のリウ・フォン(ホアン・シュエン)を中心に、彼らの何十年にもわたる関係が、みずみずしくつづられていく。
鮮やかな色使いや窓から差し込む光などの淡い映像で若者たちの普遍的な青春模様を表現している本作だが、なによりもその輝きを支えているのが、俳優たちの姿だ。“歌と踊りの技術・演技の技術・整形していないこと”という3つの条件で半年かけて500人の中から選ばれた、主要キャスト6人たち。ナチュラルな美をまとった彼女たちのビジュアルはもちろん、伸びやかではつらつさとした見事な踊りや歌声は、文工団の一員であるという役のリアリティだけでなく、若さを表す大きな説得力となっている。
特に、シャオピン役に抜擢されたミャオ・ミャオの見せる身体表現は圧倒的。様々な困難を経験したシャオピンが、本能のおもむくままに、月明かりの下で踊ってみせるダンスには、神々しさすら感じさせる自然な美しさが宿っており、思わず泣けてきてしまうほどだ。
また、1億1千万円をかけ、CG無しで精密に再現した中越戦争のシーンなど、残酷な一面も容赦なく見せることにより、逆に純真無垢な美しさを際立たせたりと、物語の構成に、淡い映像、役者の演技や監督の想いなど、さまざまな要素が合わさりあって、本作の肝である青春ドラマが織り成されているのだ。
時代に翻弄されながらも輝かしく生きる若者たちの姿に、感涙せざるをえない本作。その美しさはスクリーンで観ることで格段と際立つことは間違いない。
文/トライワークス