アクション映画界の巨匠がジャッキー・チェンとの初仕事を語る!あのアメコミ映画の話題も…
65歳を迎えた現在も世界的アクションスターとして活躍をつづけるジャッキー・チェンと、“5代目ジェームス・ボンド”ことピアース・ブロスナンが初共演を果たしたスタイリッシュアクション『ザ・フォーリナー/復讐者』が5月3日(金・祝)より公開される。このたび本作で7年ぶりに映画のメガホンをとったアクション映画の巨匠、マーティン・キャンベル監督に、2大スター共演の裏話やアクション映画への愛を語ってもらった。
本作の舞台はロンドン。レストランのオーナーとしてつつましい暮らしを送るクワン・ノク・ミンは、無差別テロによって愛する娘を目の前で失ってしまい、犯人を探しだすことを決意。娘の命を奪った償いをさせるため復讐の鬼と化し、元アメリカ特殊部隊員としての戦闘技術を活かしながらテロリストを追いはじめるクワン。その一方、北アイルランド副首相のリーアム・ヘネシーは、過去に抱えた問題によって現在の地位を脅かされていた。犯人への手がかりをヘネシーが握っていると考えたクワンは、ついにヘネシーの元を訪ねていくのだが…。
「『ポリス・ストーリー』や『酔拳』など彼の有名な作品は全部観ていて、素晴らしい役者だとずっと思っていた。でもコメディタッチでない役をできるのかどうか、その確信だけは持てていなかったんだ」と、キャンベル監督はジャッキーの印象について語りはじめる。本作でジャッキーが演じているのは娘の復讐を果たすために執念を燃やす異邦人。これまでのイメージを180度覆すような、徹底してシリアスな役どころだ。「でも彼が師匠役を演じていた『ベスト・キッド』を観て、ようやく確信を持つことができた」と、キャンベルは具体的な作品名をあげて配役を決めた経緯を明かした。
キャンベル監督とジャッキーは本作が初めてのタッグ。「俳優にとって、ヒット作に恵まれたら、そこで確立したイメージ通りの役を演じつづけるほうが安全だ。でもジャッキーには違う役を演じたいという強い気持ちがあった。世界中のファンから好まれているイメージがあると知りながらも、全然違う役を全うしたいという思いを持っていたんだ。それが彼のすごいところだ」と、ジャッキーの意識の高さに敬服するキャンベル監督。その強いプロ意識に応えるようにキャンベル監督も、彼を特別扱いすることなくほかの俳優と同じように話し合いを重ねながら、クワンという役柄を築き上げていったそうだ。
一方で、ヘネシー役を演じたピアースとは『007 ゴールデンアイ』(95)以来のタッグとなった。「実は当初、ヘネシー役には何人か候補がいたのだけれど、僕とジャッキーがピアースをゴリ押ししたんだ(笑)」と振り返るキャンベル監督。「『ゴールデンアイ』以降はなかなか一緒に仕事をする機会に恵まれなかったけれど、この20年ほどの間で彼は役者として飛び抜けた存在に成長してくれたと思うよ」と、私生活でも仲が良いというピアースについて語ると、「この後も何作か一緒に仕事をする予定があるんだ」と教えてくれた。
キャンベル監督といえばアクション映画の第一人者であると同時に、手がける作品の多くに“家族愛”というテーマが描かれていることも作風のひとつ。『バーティカル・リミット』(99)では父親をの死を通して描かれる兄妹の姿。『復讐捜査線』(10)では本作と同様、目の前で娘を殺された父親の姿が描きだされていた。「正直なところ、自分でも何故そのような物語を選ぶのか、理由はわからないんだ」と明かすキャンベル監督は、「でも間違いなく、どんな物語にも感情を喚起する背骨が必要で、なかでも“家族”という題材はとても効果的なんだ。家族の関係性と、そこに訪れる悲劇によって感情が生まれるからね」。豊潤で普遍的なドラマ性によって、アクションはもちろん映画全体に深みを生みだす。これこそがキャンベル監督が長年にわたり第一線で活躍している秘訣なのかもしれない。
それでもキャンベル監督は、あくまでも「アクション映画」というジャンルを撮ることにこだわりつづける。「それが何故かって?ひとりの観客としてアクション映画が大好きだからだよ!」と、熱烈な“アクション映画愛”を垣間見せるキャンベル監督は、いまでもアクション映画が上映していれば必ず観るようにしているそうだ。しかし近年映画界を席巻しているアメコミ映画については例外なようで、「世界征服を狙う悪役と、それを征伐するヒーローの登場。同じ型にハマっていてあまり観たいという気が進まないんだ」と難色を示す。
かつてDCコミック原作の『グリーン・ランタン』(11)を手がけ、容赦ない酷評を浴びた苦い過去を「僕のテイストじゃなかった」と振り返ると「もしまたオファーが来ることがあっても、もう興味はないよ(笑)。もっと若い人に監督を譲ったほうがいいと思う」と語るキャンベル監督もすでに75歳。現在2作の新作準備に入っているなど精力的に活動をつづける彼は、今後も自身のスタイルを貫き、唯一無二のアクション映画作家として輝きつづけることだろう。
取材・文/久保田 和馬