80年代イギリス最重要バンド“ザ・スミス”は、どのようにして生まれたのか?
クイーンの感動秘話を描き大ヒットを記録した『ボヘミアン・ラプソディ』(18)、エルトン・ジョンの半生を描く『ロケットマン』(8月23日公開)など、イギリスのミュージシャンを題材とした作品が多く作られている昨今。公開中の『イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語』は、1980年代のUKロック・シーンを席巻し、のちの90年代ブリットポップ・ムーブメントにも多大な影響を与えたバンド、ザ・スミスのフロントマン、スティーヴン・モリッシーに焦点を当てた作品だ。
はじまりは1976年、イギリス・マンチェスター。学校をドロップアウトし、音楽紙に批評を投稿するだけの日々を過ごしていた17歳のモリッシー。家計のためにと就職しても職場になじめず、詩を書くことが唯一の慰めだった彼が、ある時出会ったアーティストの卵である美大生のリンダーの後押しから、ミュージシャンを目指し、様々な別れや挫折を経験していくことに…。
映画は、のちにザ・スミスを結成することになるジョニー・マーが、モリッシーの元を訪れてくるところで幕を閉じるが、実際には、バンドはその後、1982年から1987年までのわずか5年という短い活動期間ながら絶大な人気を集め、4枚のアルバムをリリースして解散。その後は一度も再結成をせず、80年代を代表する伝説的なバンドとして今もなお高い人気を誇っている。
ジョニー・マーの作る優美なメロディーラインもさることながら、ザ・スミスの最大の特徴といえば、社会批判や疎外感をシニカルに表現したモリッシーの鬱屈した歌詞だろう。代表曲のひとつ「There Is A Light That Never Goes Out」での“2階建てバスが私たちに突っ込んでも、あなたの側で死ねるなら幸せ”という死の匂いすら漂うものなど、赤裸々なまでに弱さをさらけ出したモリッシーの歌詞は多くの若者たちの心につき刺さった。
映画でも、そんなモリッシーのひねくれていて、かつ弱い部分がしっかりと描かれており、例えば自分の才能に社会が気づいてくれないと嘆いたり、会社の同僚を全員蔑んだり、とある事件をきっかけに家に7週間引きこもったり…。自分では斜に構えるだけで何もしないにも関わらず、不平だけは一人前に嘆くという、誰もが通ってきたような何者でもない人物像は、共感を覚えさせる。
伝説的なバンドのフロントマンでありながら、誰よりも共感できる人物としてのモリッシーの姿が確認できる『イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語』。この作品を観れば、彼らザ・スミスが今もなお人気を集め続ける理由の一端がわかることだろう。
文/トライワークス