周防正行監督が『カツベン!』の裏話を告白!老舗映画館との意外なつながりとは?
来年で開館から100周年を迎える東京・新宿の老舗映画館、新宿武蔵野館。そのメモリアルイヤーに向けた「百年記念上映」が本日6月8日からスタートし、最初のテーマである「語り継がれる名作バトン」の初日を飾るサイレント映画の活弁上映の後、今年12月に最新作『カツベン!』が公開される周防正行監督がトークショーに登壇。同作で活動弁士監修を務めた活動弁士の澤登翠とともに、サイレント映画の魅力や最新作の裏話を語った。
この日上映されたのはサイレント映画時代に活躍し、今年晩年の姿を描いた伝記映画『僕たちのラストステージ』(2018)が制作された伝説のコンビ、ローレル&ハーディが主演を務めた『ローレル&ハーディのキルトとズボン』(1927)と、ドイツ表現主義を象徴する作品として今なお語り継がれる名作『カリガリ博士』(1919)の2作品。「実は『カツベン!』の中で、まさに『カリガリ博士』について主役が触れるセリフがあったので、観ることができてよかったです」と作品の余韻に浸っていた周防監督。
そんな周防監督は、新宿武蔵野館について「若い時に僕は元住吉に住んでいたので“武蔵野館”というと自由が丘の武蔵野推理劇場が強烈な思い出。新宿ではいつも新宿昭和館で映画を観ていたので、新宿武蔵野館に来るようになったのはお金が稼げるようになってからです」と学生時代の“憧れの映画館”だったというエピソードを語る。「早くいまかかっている映画が安いところでやらないかな、と思って観ていた映画館ですね(笑)」。
そして最新作『カツベン!』を手掛けたきっかけを語る周防監督。「無声映画時代、映画館は一番にぎやかだった。静かに一方的に映画を鑑賞しているスタイルではなく、実は双方向のスタイルで映画が行われていて、映画上映がライブだった時代。その空気感を知ってもらいたかった」。すると澤登は「活動写真館が再現されていて、出演者の方々が上手に語られていた」と、活動弁士ならではの視点で本作の魅力を語り、周防監督に「弁士の描き方についてのこだわり」を質問。
「僕が見させてもらっていた弁士さんのお仕事は、たぶん大正や昭和の弁士さんよりも映像に対して謙虚だと感じていました。過剰な演出をされず、今ある映画の本来の良さをどう活かせるのか考えてらっしゃる。でも当時の記録を見ると自分の語りで客を呼ぶんだという気持ちが強く、そうした出しゃばった感じを活かしながら、今の人たちに伝わる喋りを作ることを心がけました」。そこで同作では、現役の弁士である片岡一郎弁士と坂本頼光弁士に活動弁士指導を依頼したという。
さらに周防監督は『カツベン!』と新宿武蔵野館の意外なつながりを告白。「劇中で登場するサイレント映画をフィルムで白黒で撮らせてもらった。実は武蔵野館の主任弁士だった山野一郎さんのひ孫である椎名慧都さんという方が、俳優座で女優をされていて、彼女に劇中のオリジナルサイレント映画で主演を演じてもらいました。山野さんのひ孫であるというのは縁といいますか、それができてよかったです。素晴らしかったです」とにこやかに振り返る。
そして「今の時代に活弁の映画を作ろうと思った一番大きなファクターは?」と訊ねられた周防監督は「みんな日本映画がこういう風にスタートしたってことを知らないからですね」と即答し、日本で活弁が発展したのは浄瑠璃や講談、浪曲などの“語りの芸”の文化が前提にあり「物語を誰かが解説して見せるのはごく自然なことだった」と分析。
「でも“活弁”と言っても今では多くの人に通じない。『カツベン!』というタイトルにしようとした時にも何やってるかわからないという意見もあったけど、あえてそうしました。普通の若者にも映画を説明してた人だって知識は持ってほしい。日本映画の第一歩を知った上で今の映画を楽しんでほしいという気持ちが強かったです。」と最新作に込めた強い願いを明かした。
取材・文/久保田 和馬